■記号は、場=場所 定=定員 ¥=費用 申=申し込み 問=問い合わせ 特集 地域で育まれたものづくりと工夫で 涼しい暮らし     夏、照りつける太陽とうだるような暑さに悩まされることもありますね。  けれど、この季節だからこそ、そよ風に心地よさを感じることもできるのです。  季節の移り変わりの中で、わたしたちの豊かな感受性は育まれてきました。  近ごろ、自然と共存し暮らしていた昔ながらの生活様式が見直されています。  本市の気候風土で育まれてきたものづくりの中から、涼しい暮らしの工夫をご紹介します。 写真=昨年の「近江の麻展」の様子(近江商人屋敷外村宇兵衛邸) ■近江の麻 近江ちぢみ ○その風合いは夏の始まりの合図  昔から日本では、四季の移り変わりに合わせて、衣服や寝具、建具などを変えることで、過ごしやすい工夫がされてきました。  特に、蒸し暑い夏は、さらりとした肌触りが特徴の麻織物が愛用されてきました。麻は、ほかの素材と比べ、通気性に富み、汗をかいてもべたつきにくく、速乾性もあり、涼しく感じられるという効果があります。  琵琶湖から生み出される湿潤な気候と鈴鹿山系から湧き出る豊富な水量に恵まれた湖東平野は、麻織物に適した土地として発展してきました。  この地域で作られた麻織物は糸が細く、光沢があって上質であり『近江上布』と呼ばれてきました。  また、軽くて持ち運びしやすいことから近江商人の行商品として重宝され、全国に流通したという歴史があります。  平成20年には、地域ならではの特色ある商品=地域ブランドとして、特許庁の地域団体商標に、『近江の麻』、『近江ちぢみ』の名で登録されました。(注1)  「地域で育まれてきた品物の良さを、地域の人にもっと知ってほしい」との思いから、湖東繊維工業協同組合では、近江の麻と近江ちぢみの魅力を発信することを目的に産地振興委員会などを設置されました。  麻製品には、糸加工、織り、染色、仕上げ加工、縫製などの工程があり、それぞれ分業されています。同委員会では、すべての工程を地域内で担うことができる強みを生かし、県内の学生とコラボレーションした新たな商品開発をはじめ、近江商人屋敷で麻展を開催するなど積極的なPR活動をされています。  その成果もあり、平成23年には、びわ湖ホール声楽アンサンブルの衣装を製作されました。舞台に映えるように麻に箔加工を施したことで、きらきら感を出すことに成功。従来のカジュアルな装いからドレスなどフォーマルにも対応できるようになりました。また、そのことがきっかけとなり、ウェディングドレスや東近江大凧まつりでの「風の女神」の衣装製作などにつながっています。  「作り手が一生懸命培ってきた技術を価値としてとらえていただき、地域の人が愛着を持って使ってくださることで、10年後も産地として残っていくことができるのだと思います」と話すのは、産地振興委員長の北川陽子さん。  これからも魅力を発信し続けたいと語る北川さんの瞳は、産地への誇りと愛情にあふれています。 (注1)  ◆近江の麻    伝統の麻織物の技術を生かしながら現代のデザイン性を加えた麻織物や製品のこと。  ◆近江ちぢみ    伝統の加工方法でちぢみ形状のしわをつけた製品のこと。撚りをかけた緯糸を織り上げ、仕上げの段階でもみこむことで独特の凹凸“しぼ”を強調します。  ※いずれも地域団体商標の登録は、「湖東繊維工業協同組合」と「滋賀県麻織物工業協同組合」の合同によるものです。 写真=近江ちぢみ独特の“しぼ”を出すために行われる手もみ加工 写真=昭和後期まで使われていたトヨタ式自動織機 ●ものづくりの心意気  「今年は、近江の麻と絹(長浜)、綿(高島)の天然繊維3産地が合同でPRする予定です」と新たな取り組みで広がる麻織物の可能性に期待されている北川さん。  また、冷暖房完備の生活だからこそ、季節感を大切にした豊かな暮らしの提案をしていきたいと意欲を燃やされています。 写真=麻のシャツやストールを整える北川陽子さん ■角井西瓜(かくいすいか) ○シャリっとした食感にあのころを思い出す  縁側で汗をかきつつ真っ赤なすいかにかぶりつく―夏の思い出とすいかは切っても切り離せない間柄です。  また、夏のくだものの代表格であるすいかは9割が水分で、冷やして食べることで、暑さでほてった体を冷やしてくれる効果があります。  明治期から昭和30年代にかけて、角井村(現在の愛東地区北部)周辺では、『角井西瓜』と呼ばれるブランドすいかが栽培されていました。  しかし戦後、水稲生産の増加によるすいか農家の減少や品種改良されたすいかが全国的に出回ったこと、また、冷蔵庫の普及により、大玉である角井西瓜は冷蔵庫に入りきらないことなどから徐々に姿を消していきました。  それから約半世紀後の平成17年、先人が築き上げたブランドを復活させ、地域の切り札にしたいと農事組合法人アクティブファーム百済寺代表理事の山本友彦さんが呼びかけ、栽培が再開されました。現在は、『紅大』と当時栽培されていた『富研号』というどちらも重さが平均7sにもなる大玉を栽培されています。  すいか栽培は大部分が手作業のため、多くの人手を必要とします。しかし、このことで女性や高齢者、地域の人たちにも活躍の場が生まれ、新たなコミュニティの輪が広がっているそうです。  「作り手が楽しい気持ちで作っていれば、それが買い手にも伝わります。みんなで和気あいあいと作ることを大事にしながら、ブランドの名に恥じないものを栽培したいです」  良いものだけを食べてほしいという山本さんたちの思いは、7月下旬、お客さんの手元に届けられることで実を結びます。 写真=6月は摘果(てきか)(いらない玉を除く)の作業が続きます。 写真=取り除いた実。お漬物にされることもあるそうです。 ●ものづくりの心意気  「先人の偉業があるからこそ、この地ですいかを作る意味があります。来られた人に歴史も知ってほしいですね」と、角井西瓜に対する熱意と愛情たっぷりの山本さん。  また、生産者と消費者が直接ふれあい交流することが大切と、対面販売にこだわり、直売所のみで販売されています。 写真=すいかのツルを手にする山本友彦さん ■近江葭(よし)すだれ ○揺れるすだれに風を見る  外出時に日傘を差したり、日陰を歩いたりすると、直接太陽に当たるよりも暑さが和らぎますね。  同じように、すだれやよしずを窓の外に取り付けると、夏の照りつける太陽は遮断しつつ、さわやかな風だけを室内に運んでくれる効果があります。  「風情があり、見て涼しさを感じられることも、すだれやよしずの魅力です」と教えてくださったのは、福堂町ですだれや茅葺(かやぶ)き屋根などヨシ製品を手がけられている潟^イナカの3代目、田井中敏己さんです。  すだれの原料のひとつであるヨシは、イネ科の多年草で、湿地帯に群生します。また、茎は1年で3m程の高さまで成長します。  この仕事は材料がすべてと、茎が乾燥する毎年1〜3月に、琵琶湖岸でおよそ80tものヨシを刈り取ります。その後、1年かけて、長さや太さを揃え、飴色に色づくまで10〜20年の間じっくりと寝かせます。  すだれ作りは、職人の技が仕上がりを左右します。茶室に使用されるすだれは、ヨシの色の濃い部分が波打つようなかすりの柄となるよう編みこみますが、熟練の職人でないと柄がうまく表現できません。また、編みこむ直前に行われる、ヨシをまっすぐにためなおす(節の近くを爪で折りまっすぐにすること)技術も、職人の感覚が必要不可欠なのだそうです。  「こだわりぬくことが、仕事の強みにつながる」と、良いものを作ることに熱意を燃やす3代目に、この地で育まれた技術は受け継がれています。 写真=ヨシをまっすぐに“ためなおす”作業は、言われないと気づかない程、流れるように自然に行われます。 写真=「これで満足という作品はないですね。常に勉強」と2代目の田井中敏夫さん。 ●ものづくりの心意気  「刈り取りは力仕事で大変ですが、わたしたちが良いヨシを選別し、見分けることが良い品につながります」と材料の調達から製造まで取り組む田井中さん。  原料となるヨシにもこだわり、おじいさんの代から曲がりが少なく良質な近江八幡のヨシ地のものを使用されています。 写真=ヨシを抱える田井中敏己さん ■夏の暮らしの提案 〜ふるきをたずね新しきを知る〜 五個荘近江商人屋敷企画展「昭和の暮らしを懐かしむ」  五個荘地区は、近江商人発祥の地として、幕末から昭和戦前期にかけて多くの商人を輩出しました。  商人たちは、湖東地域で古くから生産が盛んであった麻布を主な持ち下り商品として、てんびん棒をかつぎ全国を行商しました。  当時の面影を残す五個荘近江商人屋敷で、昭和の懐かしい風景を再現し、夏を涼しく過ごす先人たちの知恵や工夫を紹介します。また、地域ブランドである「近江の麻」「近江ちぢみ」もあわせて展示します。 @展示会 時=7月1日(月)〜5日(金)8:30〜17:15 場=市役所1階ホール 問=観光物産課  電話=0748-24-5662 IP=0505-801-5662 Aうちわ・扇子展 場=近江商人屋敷 外村繁邸 B近江の麻展、昭和の暮らし展 場=近江商人屋敷 外村宇兵衛邸・中江準五郎邸 【A、B共通】 時=7月3日(水)〜8月31日(土)9:30〜16:30 ※休館日: 毎週月曜日(7月15日(祝)除く)、7月16日(火) ¥=600円(3館共通入館券) Cイン・ヒュッテ コンサート  ヤマハ初期の国産ピアノとフルートアンサンブルで昔懐かしい音色を楽しみましょう。 時=7月14日(日)@13:00から A15:00から 場=近江商人屋敷 藤井彦四郎邸 ¥=300円 D納涼開館〜近江商人屋敷で夕涼み〜 時=8月9日(金)〜11日(日)9:30〜19:30まで開館 場=近江商人屋敷 外村繁邸・外村宇兵衛邸・中江準五郎邸 ¥=600円(3館共通入館券) Eゆかた着付け教室 時=8月10日(土)、11日(日)16:00〜18:00 場=ぷらざ三方よし ¥=1,000円(3館共通入館券付き) 定=各日10人(申し込みが必要) F染物教室 時=8月24日(土)、25日(日)10:00〜12:00 場=ファブリカ村(佐野町)  ¥=1,500円 定=各日10人(申し込みが必要、5人以上の申し込みで開催) 【A〜F】 申問=市観光協会  電話=0748-48-2100 IP=0505-801-6678