■記号は、問=問い合わせ IP=IP電話 特集 琵琶湖につながる私たち Mother Lake,Father Forest −鈴鹿から琵琶湖、その豊かな自然とともに−  滋賀県のシンボル琵琶湖=B私たちの暮らしは、水源から琵琶湖までの豊かな自然の恵みをいただいて成り立っています。  多様性に富んだ生態系や景観は、地域の豊かさそのものを示し、それらを大切に守り育てることは、私たちの暮らしを持続可能で豊かなものにすることにつながります。  7月1日は「びわ湖の日」。この機会に、琵琶湖と私たちのつながりを、考えてみましょう。 ●暮らしと琵琶湖  四季折々でさまざまな表情を見せる、琵琶湖。私たちの暮らし方で変化してきた琵琶湖の環境問題について、振り返ってみましょう。  昭和52年5月、琵琶湖に大規模な赤潮が発生し、水道水の汚れや臭い、アユやコイなどの生き物が大量に死ぬという被害をもたらしました。赤潮の原因は、私たちの暮らしの中から琵琶湖に排出された窒素やりんなどによる富栄養化だったのです。 ◆住民が取り戻した湖の環境  このことに危機感をもった住民が中心となって、りんの入った合成洗剤を使わない、いわゆる「石けん運動」が展開され、昭和55年7月には全国に先駆けて、琵琶湖の富栄養化の原因となる窒素、りんの排出規制などを定めた「滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例」(琵琶湖条例)が施行されました。その翌年には条例施行1周年を記念して7月1日を「びわ湖の日」と定められました。  人々の暮らしによって一度は危ぶまれた琵琶湖の環境も、再び人々の暮らしによって守られることになったのです。 ●森林と琵琶湖  本市は、面積の56%を森林が占めています。森林にはさまざまな役割がありますが、琵琶湖に流れ込む水を育む森林は、多くの課題を抱えています。 ◆森に人が入らなくなって…  かつての森林は、肥料や燃料、建築資材などを求める人々により適正な管理がなされてきました。戦後の造林政策により、杉や桧などが植樹されましたが、国産材の価格下落などにより、林業で生計を立てることが難しくなりました。また、燃料革命により家庭でも石油や電気が利用されるようになったことで、人々は森林から遠ざかっていきました。  木々を伐採し更新することがなくなった暗い森は、猪や鹿のすみかとなり、田畑を荒らすなど人々とのトラブルを招くようになりました。 ◆森の持つ力を育む  このことは、水とも密接に関わっています。本来森林は、地下水を育む「涵養力(かんようりょく)」という力を持っていますが、荒れている森林では十分な涵養力が発揮されません。適切に伐採し利用することで、光が差し込み、多様な植生が実現し、豊かな森林になります。豊かな森林は、水をはじめさまざまな恵みを私たちにもたらしてくれます。  市内では、獣害対策と合わせて、森林の整備が進むようになってきました。また、地域の森林を守るために集まった多様な人々により、森林の恵みを賢く利用する取り組みも始まっています。 写真=整備された里山 写真説明=人が整備した森林は光が差し込み、多様な生態系が復活する ◇人の営みと森林をつなぐお手伝いを 一般社団法人kikito(キキト) 代表 大林恵子さん  「びわ湖の森を元気にしよう」を合言葉に、平成20年に活動を始めました。  原木の調達から商品開発・販売まで、地域材を無駄なく有効利用するための仕組みづくりや、企業の森づくり活動のコーディネートに取り組んでいます。また、生活の中に地元の森林資源を自然と取り入れることができるよう、地域材を活用した名刺入れや鉛筆、さらには間伐材を配合したコピー用紙や印刷用紙も販売しています。  これからも、森林とともに豊かに暮らせる未来をめざして、人の営みと森林が結びつくカタチを提案し、つなぐお手伝いを続けていきます。 写真=企業の森づくり活動の様子、大林さんの顔写真 ●河川と琵琶湖  市内からは、7本の一級河川が琵琶湖に流入し、河川やその生態系とつながる活動が展開されています。 ◆生き物調査で環境を考える  能登川南小学校では、5年生の児童が、学校近くを流れる山路川の生態系調査を平成12年度から行っています。調査では、子どもたちが上流・中流・下流の3か所に分かれ、そこに生息している生き物を調べます。  調査することで、身近に流れる川の生態系に関心を持つと同時に、どのようにすれば川の環境を守っていけるかを考える機会になっています。 ◇いつまでも、子どもたちの心に残る川に 能登川博物館地域学芸員 吉原秀吉さん  山路川は、きれいな水を好む生き物と川底のドロに生息する生き物がどちらも見られる貴重な川です。絶滅危惧種に指定されているスナヤツメも多く見られます。  子どもたちは、生き物調査(写真)以外にも、水の透明度などを調査し、地域の川や水について総合的に学習します。  大人になってからも、きれいな地元の川や、すんでいた生き物たちのことを思い出してほしいですね。 写真=川を調査する子どもたちの様子、吉原さんの顔写真 ◆全国的にも珍しい河辺林  市内で最大の河川である愛知川沿いには、貴重な平地林である河辺林が広がっています。川の横に森が広がる風景は、全国的にも非常に珍しいものです。  河辺林は水害から集落を守り、蒔や柴などの燃料を取る場であるなど、暮らしに欠かせない存在でした。また、洪水の際に山地から植物の種子が流れてくるため、本来は上流域でしか見ることのできないキクザキイチゲやイチリンソウなどが見られることも河辺林の特徴です。  しかし、暮らしの近代化などにより人々が利用する機会が減ると、森は荒れるようになりました。  こうしたことから、平成10年、建部北町にある市内最大規模の河辺林で、市民が保全活動を始めました。森と人との関わりを知らない今の子どもたちにとって、平地の河辺林は森を知る第一歩として好適です。このため、市が地元からお借りして河辺いきものの森として整備し、今も市民とともに森を保全し、活用しています。  ◇河辺林での活動を、市内の森林に広げたい 河辺いきものの森 丸橋裕一副主幹  ボランティアのみなさんとともに森の保全を15年、森がオープンして12年で11万8千人以上を案内してきました。特に、市内の幼稚園・保育園・小学校の子どもたちが環境学習に大勢来てくれています(写真)。  今後は、この森を拠点に、これまで培ってきたことを市内のあちこちの森林で生かしていきたいですね。 写真=環境学習をする小学生、丸橋副主幹の顔写真 問=八日市いきものふれあいの里(河辺いきものの森)  電話=0748-20-5211 0505-801-5211 ●田園と琵琶湖  本市は、愛知川により形成された平野部を中心に田園地帯が広がっています。田園と琵琶湖とのつながりについて、考えてみましょう。 ◆琵琶湖にも人にも優しく  稲作は、水との関わりが欠かせません。多くの農薬を使用することは、人間への影響だけでなく、水の中にすむ生き物や周辺の植物にも影響を与えます。  環境にやさしい農業を実践しようと、本市においても「環境こだわり農産物」の取り組みが盛んに行われています。周辺環境に配慮した農薬の使用や、水田からの濁水の流出防止の取り組みは、琵琶湖やその生き物のためだけでなく、私たち人間にとっての安全にもつながるのです。 ◆ゆりかごとしての水田  また、水田やその周辺の水路はニゴロブナやナマズなど、魚にとって絶好の産卵・繁殖場所として、まさに「ゆりかご」の役割を担っています。各集落では、子どもたちによる生き物観察会やニゴロブナの放流などを通じて、自然に親しみ生態系を保全する活動も盛んに行われています。 ◇放流したニゴロブナが遡上(そじょう)することを夢見て 小川営農組合 副組合長 薗 博さん  小川町地先の田んぼで、近くにある八宮(はちのみや)保育園の4・5歳児と一緒にニゴロブナの仔魚を放流しました(写真)。放流時には5mmほどの仔魚が1か月ほどで3cmほどに成長し、その後大同川に放流しました。  放流した仔魚が、何年後かに大同川に遡上してくることを夢見ています。地域のみなさんとともに、子どもたちにもニゴロブナの成長を見守ってほしいです。 写真=ニゴロブナの仔魚を放流する園児、薗さんの顔写真 ●内湖と琵琶湖  琵琶湖には「内湖」と呼ばれる湖に接する独立した水域があります。かつては、大小多くの内湖が存在しましたが、戦前から戦後にかけての新田開発や干拓事業により、現存する内湖は23にまで減少しました。  そのうち、能登川地区の大同川から流入する伊庭内湖は、面積約49ヘクタール、県下で2番目の大きさの内湖です。もとは大中の湖干拓地の残地であり、農業用水や漁場はもとより、周辺に茂るヨシなどの水草も活用されてきました。 ◆伊庭内湖と人々の関わり  伊庭内湖のほとりに行くと、能登川水車とカヌーランドで遊ぶ親子連れや、釣りを楽しむ人々の姿などがあり、市民の憩いの場になっています。戦後まもない頃は、子どもたちが砂浜で遊んだりシジミを取ったりする光景が見られたそうです。しかし、ブラックバスやブルーギルをはじめとする外来魚や、強大な繁殖力を持つナガエツルノゲイトウなどの外来植物による生態系の乱れが課題となっています。  そんな伊庭内湖を、美しい日本の原風景として次の世代に伝えていこうと、平成21年に「伊庭の里湖(さとうみ)づくり協議会」が市民・団体・行政の協働により立ち上がりました。同協議会では、森・里・川・湖の『自然と自然のつながり』を本市の宝ものとして大切にしようと、外来動植物の駆除や不法投棄ごみの回収、水鳥観察会など、さまざまな取り組みを展開しています。  多様な人々が関わり、一つひとつの取り組みがつながりあいながら内湖を保全することで、琵琶湖本来の生物多様性が守られ、ひいては人と自然が共生する持続可能なまちづくりにもつながっていきます。 写真=猪子山から望む伊庭内湖 ◇子どもの頃に遊んだ自然を取り戻そう 伊庭の里湖づくり協議会 会長 田中信弘さん  里山のように、私たちの宝物である“里湖”を保全する活動を継続的に行っています。  協議会に参加する団体や周辺の自治会は、湖面のごみ回収や外来魚駆除釣り大会(写真)、水鳥観察会などを開催し、人と自然のつながりが深まったと強く感じています。  冬に行っているヨシ刈りには地元だけでなく、企業や学校など、水を、琵琶湖を、さらには里湖を大切に思う人々が集まってきます。これからも、人のつながりを広げられる活動を続けていきます。 写真=外来魚駆除釣り大会の様子、田中さんの顔写真 ◇こんな外来種に要注意! 【外来植物】ナガエツルノゲイトウ(写真あり)  茎の断片からでも旺盛な栄養繁殖を繰り返す。水域や湿地を中心に生育するが、陸上でも生育可能。駆除には専門家の指導が必要。 【外来魚】ブラックバス(写真あり)  北米原産。オオクチバスとコクチバスがあるが、いずれも肉食性で甲殻類や魚類を捕食する。オオクチバスはかつて琵琶湖で大繁殖した。 【外来魚】ブルーギル(写真あり)  北米原産。エラの後ろ側が青いことが特徴。平成5年に南湖を中心に大繁殖し、生息域を拡大してきた。現在では琵琶湖全域に生息する。 *外来魚はリリースせず、回収ボックスへ! ●未来と琵琶湖  これまで紹介してきたように、源流域である森林から琵琶湖までが一つの水系でつながり、広範な自然環境を有する本市では、それぞれの立場で、市民のみなさんによるさまざまな活動が行われています。  実は、これらは別々のものではなく、複雑に絡み合いながら、本市全体のより良い環境づくりに寄与しているといえます。  特定の環境、あるいは普段の暮らしに身近な環境だけに目を向けるのではなく、時には森へ、川へ、田へ、内湖へ…さまざまな環境に目を向けてみませんか。  そして、豊かな自然に育まれてきた歴史や文化に思いを馳せ、これらを子や孫の代までつなげていくことで、私たちの心もまた、豊かに育まれるのではないでしょうか。 問=生活環境課  電話=0748-24-5633 IP=0505-801-5633