■記号は、時=日時 問=問い合わせ IP=IP電話 FAX=ファックス 特集 日本遺産×東近江市    祈りと暮らしの水遺産    守り継がれた水文化    守り継がれる尊き心 ●日本遺産とは  文化庁が平成27年度に創設した日本遺産の制度は、日本が世界に誇れる地域の文化を「日本遺産」として認定し、情報の発信や保全を進めるための制度です。琵琶湖を中心とした「水」と密着した生活にスポットを当てた「琵琶湖とその水辺景観−祈りと暮らしの水遺産」は、日本遺産第1弾として認定されました。本市からは、県内に26ある構成文化財のうち、「伊庭の水辺景観」と「五個荘金堂重要伝統的建造物群保存地区」が選ばれました。 ●継承への息づかいを感じる  本市は、鈴鹿山脈を源流とする愛知川、琵琶湖およびその内湖などの水の恵みと人々の暮らしが密接に関連して、長い歴史をつむいできました。それは今も、これからも変わりません。認定された2つの地域はその象徴です。  そして、豊かな文化と素晴らしい景観の背後には、住民の皆さんの継承への努力がはっきりと息づいています。私たちは、その軌跡を、豊かな文化や美しい景観とともに見ることができるのです。 ●全国的に見て評価が高く、ツアーも人気  ・(一社)東近江市観光協会  ・日本遺産「水の文化」東近江市地域協議会長   百々孝義さん  日本遺産は平成27年度から始まった制度ですが、滋賀県からどういった文化をどのような物語として申請するか、その検討段階から事業に参画していました。認定第1弾の1つに選ばれ、かつ東近江市の文化財を2つ選定いただいたことをとても喜んでいます。  現在、日本遺産は全国で37件認定されていますが、「琵琶湖とその水辺景観−祈りと暮らしの水遺産」は全国的に評価が高いと聞いています。それを象徴するように、東近江市観光協会主催のツアーも人気を博しています。特に地元の語り部の皆さんのガイドが好評で、地域と触れ合うことができ、見ただけでは伝わらない風土や文化を知ることができます。  本市の「伊庭の水辺景観」と「五個荘金堂地区」は、住民の皆さんの生活の場であることが特徴です。両地区の魅力を発信し、多くのお客様に来ていただきたいと思いますが、住民の皆さんの気持ちに添った誘客のやり方が大切だと思っています。また、受け入れ態勢の整備についても、時間をかけながら進めていきたいと思います。  関係団体の連携を深めるため、両地区の皆さんや観光・交通会社、市職員などとともに日本遺産「水の文化」東近江市地域協議会を立ち上げました。今年は「食文化」をテーマに、本市ならではの食を提供できないか検討を進めています。  東近江市は魅力ある素材やテーマの宝庫です。ただ、どのように物語としてまとめ、楽しみを付加するかという「磨き上げる」技術と「発信する」力が必要です。日本遺産が本市観光のけん引役を担えるよう取り組んでいきたいですね。 ■暮らしと心を映す水郷 伊庭集落  かつて近江守護代の伊庭氏の館があり、連歌師「宗祇法師」の生まれの地でもある伊庭の集落。その歴史は、長い年月を経て、水と関わり、脈々と受け継がれてきました。  集落内には縦横に水路がはしり、かつては水田や県内一の大きさを誇る内湖「大中の湖」にも通じていました。集落内は農作業や漁業に出掛ける田舟が頻繁に行き来し、まさに水郷の様相を呈していました。  現在、大中の湖は干拓され、水路も自動車の往来のために狭められました。しかしながら、昔と変わらず澄みわたる川面には、無数の魚たちが元気に泳ぎ回り、水路を囲む古い石積みのすき間から可憐な草花が顔を出す景観は、今も湖辺集落の趣きを残しています。 ボランティアガイド 村田恒治郎さん 伊庭町自治会長 村田八佐夫さん  集落中に張り巡らされた水路は道路に変わり、今では半分程度になりました。かつては道路に面していない家があっても、水路に面していない家はなかったように、水路は生活、交通の要でした。各戸に1艘は木造の田舟を持ち、水路に下りることができる「カワト」がありました。昭和25年ごろまでは、水路の水で米をとぎ、お風呂に入れるなど、水路はすべての生活の源であり、同時に水を大切にする気持ちを誰もが持ち合わせていました。歴史ある社寺も大切に守り、まさしく「祈りと暮らしの水遺産」の言葉どおりの集落です。  ただ、難しさも感じています。時間が経てば立派な石垣の水路も崩れやすくなります。大切な歴史遺産を守りたいと思う一方で、維持や補修には手間とお金がかかり、ときに住民生活の制約にもなります。集落のいろんな声を聞きながら、まちの魅力を伝えていけたらと思います。 ■緑と水と条里の故郷 五個荘金堂地区  近江商人の故郷、五個荘金堂地区。白壁の土蔵、舟板塀などを有する商人の本宅と、伝統的な農家住宅が並び、その町並みの美しさは全国的に有名です。  しかしながら、同地区が水と深い関わりを持っていることはあまり知られてきませんでした。あたりを見渡すと町中に水路がはしり、水路に石段を張り出した「アライト」、住宅内に水路を引き込んだ「イレガワト」が見られ、日々の生活と密接に関わっていました。また、五個荘地区は集落や田畑の至るところで愛知川の伏流水がふつふつと湧き、ハリヨが泳ぎ、ホタルが舞っていました。今では愛知川の水流が細り、湧水も減りましたが、現在も水と生活の関わりが感じられます。 特定非営利活動法人金堂まちなみ保存会 西村實顧問 小杉富男理事長  五個荘地区一帯では、あちらこちらで愛知川の伏流水が湧き、金堂の集落を巡る水路にも流れ込んでいたので、昔から水がとてもきれいでした。「アライト」や「イレガワト」で野菜や食器を洗い、水路で飼っていた鯉がそれを食べることで、水路がきれいに保たれるという知恵もありました。井戸水も豊かで清く冷たく、夏はスイカなどをかごに入れて井戸の底へ下ろし、天然の冷蔵庫として利用していました。水の恩恵は私たちの生活に切っても切れないものでした。  この地で代々受け継がれてきた景観、生活の風習、慣例は、外から見ると実はこの地に特有のものなんだと気づかされます。そうした地区の文化を小学校に出向き、地元の小学生たちに伝えています。また、水辺の景観を守るため水路で錦鯉を育てるなど、日々継承への取組みを行っています。