■記号は、問=問い合わせ IP=IP電話 FAX=ファックス 特集 里山保育 園庭を飛び出そう! 学び場は、無限大。 写真=五個荘東幼稚園の園児たち ・里山へ出掛けよう  緑の木々が豊かに茂る里山へ出掛ける子どもたち。足取りは軽く、心もワクワク。おてんとさまも、子どもたちの心を映したかのように、青く晴れ渡っています。  「このあたりに、くっつきむしがあるよ!」と先生が言うと、一斉に探し始めます。見つけたら、たちまち友達や先生の背中にくっつけて大はしゃぎ。子どもたちは自然の中で遊ぶ楽しさを誰よりも知っています。 ・自然の中の発見を大切に  里山保育では、子どもたちが『見る、聞く、匂う、味わう、触れる』の五感すべてを使って主体的に自然の中で発見することを大切にしています。スタッフは、自然の見方をアドバイスして、あとは子どもたちの発見に共感することを大切にしています。  また、自然の環境を生かした体験もしています。木づちを使って木の板に小さな木の棒を打ち込み、どんぐりを転がすピンボールを作ったり、のこぎりで半分に切った竹をつなぎあわせて水路をつくったり。「やったら絶対に面白い。」という挑戦を自然の中で体験します。 ・遊びながら、生きる力を学ぶ  豊かな自然環境の中で心身を育む里山保育。現在は、五個荘東幼稚園と能登川ひばり保育園で行われています。河辺いきものの森のスタッフが自然の専門家として、各園の先生が保育のプロとして、主に5歳児を対象に各園で年間10回程度実施しています。  里山には、思いがけない教材があちこちに隠れています。傷ついたバッタを見つけた子は、友達同士で話し合い、草むらに大きな葉っぱを敷いて優しく置いてあげました。おいしいフユイチゴを見つけた子は、小さな1粒1粒を友達と一緒に分け合って食べていました。どちらも子どもたち自身が考え、話し合って取った行動です。  子どもたちは、里山で出会い触れ合うたくさんのいのちから、いのちの大切さを学ぶでしょう。自分が見つけたものを友達と一緒に共有することの喜びや楽しさを学ぶでしょう。成果を数字で測ることはできませんが、里山保育を通して遊びながら生きる力を身に付けていくのです。 ■自然の中で、身の守り方も学んで 能登川ひばり保育園 古賀喜美子園長  里山を思いっきり楽しむために、安全面には一番気をつけています。長袖長ズボンで、帽子をかぶるといった毛虫などへの対策や、蜂が近づいたときの対処方法などを学び、普段の外出時でも自然に親しんでほしいと思います。 園庭のさなぎを観察したり、山が生む気流に乗って上昇するタカやトンビを園から発見するなど、日ごろから自然を見る目が豊かになりました。自然を楽しむ子どもたちの姿を見て、保護者や地域の皆さん、職員など多くの人が身近な自然に関心を持つきっかけになっていると思います。 ■学びの基礎を身に付ける場に 五個荘東幼稚園 安田とみ子園長  里山保育では、自然の中で発見する楽しさを伝えています。それは、「探す気持ち、見つける力、伝えたい想い」につながり、将来の学びの基礎を身に付けてくれていると思います。  年間を通じて出掛けることで、季節の移ろいを感じることができます。つぼみがふっくらとした春の芽生え、少しずつ葉の先から赤くなる紅葉など、大人の私たちもそうした発見を楽しんでいます。子どもたちにはそのような自然の豊かさも肌で感じてほしいです。 写真=@プロペラの種(もみじの種)見つけた! A緑がいっぱい、気持ちいい! Bどんぐりのピンボール C笑顔で駆け出す DE猪子山の山頂で鳥をあしらったステンシルのトートバック作り Fトナカイの角みたい G木の実見つけた! Hきれいな黄色い葉っぱを発見 I大きなサワガニに少し戸惑う Jバッタを捕まえて笑顔 ●−interview−  里山や自然を身近に感じて。  八日市いきものふれあいの里 河辺いきものの森 丸橋裕一  「一定のルールの中で、子どもたちに自由や自己選択の機会を与えられる。それが里山保育のいいところですね。」と話す河辺いきものの森の丸橋裕一さんは、里山保育の仕掛け人です。  子どもたちが里山に出掛けるときに首からかける探検カード。真っ赤な木の実、枯れ枝、虫の鳴き声などのイラストが描かれていて、見つけたり、聞いたりしたらシールを貼っていきます。  「このあたりで、木の実と枯れ枝を一緒に見つけようか。」とスタッフが呼びかけると、子どもたちは一斉に探します。でも、その過程はみんなそれぞれ。ある子は枯れ枝探しに夢中になって、腕いっぱいの枯れ枝を披露してくれます。丸橋さんは「子どもたちが自ら興味や考えを持って行動を決めることが大切です。そして、『面白い枝をたくさん見つけたね』って認めてあげることで、子どもたちの自己肯定感につながることができる場だと思います。」と、意義を話されます。  河辺いきものの森では、毎日のように子どもたちの環境学習を受け入れています。里山保育では、これまで培ったノウハウを生かし、身近にある里山や自然環境を楽しむことができるように、各園に出張する形で自然の中での発見の仕方、物の見方を伝えています。  今では、園の日々の散歩でも、子どもたちが道端やあぜ道で次々に新しい発見をしてなかなか目的地にたどり着けないケースも。丸橋さんは「子どもたちは、一度見るポイントを伝えたら、自分たちの力で自然を見るようになります。」と子どもたちの大きな力について話されます。  丸橋さんは、その山でその時にできる体験を大事にしています。そのためにも、必ず下見は欠かしません。「こんな近くに季節が移ろう里山や自然がたくさんあることを知って、身近に感じて欲しい。」という『想い』があるからです。  里山保育で園を訪れるたびに、子どもたちが待ち遠しく迎えてくれること、保護者から「この前、山に出掛けましたよ。」と言われることが、「素直に嬉しいですし、やりがいです。」と話す丸橋さん。  丸橋さんの『想い』は、確実に届いています。 写真=笑顔の丸橋さん 写真=里山保育で自然のことを伝える丸橋さん ・東近江市にぎわい里山づくり条例  里山づくり。それは、里山を保全するだけでなく、人と自然を結びつける場として活用することです。東近江市にぎわい里山づくり条例は、里山とともに生きるよりよいまちづくりが進むように制定された条例です。  この条例で「にぎわい里山づくり団体」として認定した団体には、保全活動への支援を行っています。現在市内で23団体が登録されていますが、市内ではこのほかにも多くの里山保全活動が行われています。  認定の手続きなど、ぜひお問い合わせください。  問=河辺いきものの森 電話=0748-20-5211 IP電話=050-5801-5211 ファックス=0748-20-5210 写真=里山の登山道を登る園児たち ●−interview−  人が入ることで、里山を元気に。  里山保全団体 山貴会(五個荘山本町)の皆さん  地元の皆さんが「山本山」の名で親しむ箕作山北側の散策コースなどの整備を行う山貴会の皆さん。月に1回、毎回15人程度で活動されています。メンバーの皆さんが子どものころ、山本山は格好の遊び場でした。学校が終わると山本山に集まり、あけびをおやつとして食べたり、木の枝でチャンバラごっこをしたり。「家に遊ぶものがなかったから。」と笑うものの、里山での思い出話は尽きることがありません。  かつて、里山は人の生活に密接に関わっていて、きのこや野うさぎは食料に、薪は燃料にしていました。人の手が入った里山には日光が入り、多様な植物や生き物であふれていました。「少しでも、当時の里山を取り戻せたら。」活動にはそんな思いも込められています。  もちろん、活動では自然の中での喜びを大切にされていて、「やっぱり、木々に囲まれた中での作業は空気もおいしくて、すがすがしい気分になります。身体を動かすことで健康にもいいですね。」と話されます。中には、歴史が好きで、山頂付近の箕作城跡の保全につなげたいと参加している人もいます。山貴会が発足して6年が経ちますが、それぞれの思いを尊重し、自由に活動することで、継続的な活動につながっています。  五個荘東幼稚園の園児たちが山本山で里山保育をしていることに関しては、「やっぱり、素直に嬉しいですよね。」と顔がほころびます。保全活動の中でも、子どもたちの安全を考えて、倒れそうな木を伐採したり、少し拓けた場所に木製のベンチを置いたりして、子どもたちの活動の環境を整えています。「次は少し山を登ったところに、子どもたちが遊んだり活動できるような休憩所を整備しようか。」と話されています。その言葉の節々には、子どもたちを思いやるまごころを垣間見ることができます。  「自然に親しみ、自然のよさを知る子に育ってほしい。」そんな思いには、かつて子どものころ、里山で遊びまわった記憶や風景が思い出されるからかもしれません。 写真=山貴会の皆さん 写真=山頂付近で草を刈るメンバー ・里山に人の手が入る大切さ  里山に人の手が入らなくなると、木々は生い茂っていき、森は暗くなっていきます。森が暗くなると、落葉樹の木々や下草が少なくなり、暗いところでも育つ少数の常緑樹に移り変わっていきます。これに伴って、生き物の種数も減り、生物の多様性が失われてしまいます。  里山と人の相互の関係があることで、色んな生き物や草木が里山に生息することができるのです。 写真=特定の生き物しか棲めない暗い森 写真=いろんな動植物が生息する明るい森     ●五個荘東幼稚園の保護者の皆さん 【橋里恵子さん、小倉由美さん、辻希恵さん(左から)】 山でしかできない体験がきっとある  里山保育では、楽しく知識になる自然のお話を専門家がされるので、子どもたちはいつも自然のこと、生き物のことをたくさん学んで帰ってきてくれます。  昆虫なども、いつも一緒に過ごしているお友だちが捕まえて、触っているのを見て、「大丈夫なんだ」と思って、怖がらないようになりました。そうしたことが、将来大人になったときのたくましさにつながると思います。  里山保育に参加してみて、自由に動き回って、自分たちで新しい発見を次々とみつける子どもたちの姿を見て、うらやましく感じました。きっと、山でしかできない体験があるんだと思います。  おもちゃがなくても自然の中で楽しめる。この地域は、私たちが子どものころに遊んだ環境が今も変わらず残っていると思います。 写真=笑顔の橋里恵子さん、小倉由美さん、辻希恵さん ●地元の植物に詳しい森小夜子さん(中小路町)  近いからこそ、本当の森の姿に出会える  豊かな森は、背丈の低い木、中程度の木、高い木が入り混じっています。例えば、この地域の里山では、低木のモチツツジ、中木のリョウブ、高木のコナラなどが生え、それぞれに生き物が訪れることで、多様な動植物が育まれています。  多様な植物があると、鮮やかな紅葉を見せてくれる葉やわたあめのような甘い香りのする落ち葉、甘酸っぱいフユイチゴなど、見て、触って、匂って、食べてなど、自然を五感いっぱいで感じられます。  子どもたちは色んな目線で自然を観察するので、お父さんやお母さんも、子どもと一緒に出掛けると、新しい発見があると思います。  1年を通じて森に出かけると、植物の一生や移り変わりを目の当たりにし、本当の森の姿に出会うことができます。そうすれば、きっと自然に親しみをもてるはずです。珍しさは重要ではありません。身近なところに豊かな自然があり、四季を通じて気軽に楽しめることが、里山の大きな魅力ですね。 写真=落ち葉を手に里山を歩く森小夜子さん 写真=能登川ひばり保育園の園児たち ● 自然の中でいきいきと遊ぶ子どもたち。 木の枝を角に見立てて、トナカイの真似をしたり。赤や黄色の木の実や葉っぱを集めて友達に自慢をしたり。 きのこやきれいな草花を見つけて、はしゃいだり。 子どもたちは、自然と遊び、自然に溶け込む「すべ」を知っています。 私たち大人も、緑に囲まれるとすがすがしさや心地よさを感じるのではないでしょうか。 ハイキングを楽しんだり、豊かな田園の眺望を眺めたり、朝の気持ちのいい空気を感じに散歩に出掛けたり。 あるいは、赤や黄色に色付いていく里山をふもとから眺めるだけで、四季を感じることができます。 そう、私たちが普段なにげなく目にしている里山には、身近で、本物の自然が息づいているのです。 −SATOYAMA LOVERS− あなたも、里山の魅力に触れてみませんか。 写真=コスモス畑と箕作山 写真=雪野山 写真=猪子山からの眺望