■記号は、問=問い合わせ IP=IP電話 FAX=ファックス アール・ブリュット作家 古久保憲満さん。自分らしく、生きるということ。  住み慣れた地域で自分らしく安心して暮らすためには、互いの存在を認め合い、それぞれが持つ長所を伸ばしていけるような環境づくりが重要です。  障害も個性として認め合い、尊重することが、障害のある人への理解を深める第一歩となります。  ― 無心。まるで生きているようにペンが動く。ボールペンを使い、細かい四角や縦横の線を一つ一つ描いていく。近未来の街や、開発中の街が形どられる。色鉛筆で鮮やかに色づけられ、今にも動き出しそうな唯一無二の街が現れる。―  「全体の設計図は頭に浮かびます。実際見た風景やインターネットで見た景色が湧き出てきます。」雄弁に話してくれる古久保憲満さん(中野町)。  古久保さんの描く絵画はアール・ブリュットという分野で国内の様々な絵画コンクールで入賞し、今や海外での展覧会などにも出展されています。展覧会では時にはトークセッションにも参加し、描き方などを紹介されます。平成25年には総理官邸にも招待され、安倍晋三首相と懇談されました。  古久保さんが絵を描きだしたのは小学生の頃。幼少期から情緒が不安定で、騒がしい場所ではパニックになることもありました。小学校でもざわつく教室の中にいることができませんでした。しかしながら、なぜか絵を描くと落ち着くことができ、ひたすら自由帳やチラシの裏面に絵を描いて過ごしました。  高機能自閉症。古久保さんはそう診断され、小学校卒業後は県立八日市養護学校に進学。進学後も気持ちを整理するためにひたすら絵を描く毎日でした。  そんな日々の中、転機が訪れます。高等部に進級した15歳の古久保さんに担任の徳田佳弘先生と美術科の馬場功先生が提案しました。「大きな用紙に絵を描き、コンクールに挑戦してみない?」  馬場先生は当時を振り返り、「絵を一目見てこれは面白いと感じました。コンクールに出品してもきっと入選するだろうと思っていました。」と話します。  夏休み期間中に仕上げられた縦150センチメートル横120センチメートルあまりの大作は、大手企業の絵画コンクールで最優秀賞を受賞。これを機に様々なコンクールで受賞を重ねるようになりました。社会福祉法人愛成会(東京都)や社会福祉法人グロー(近江八幡市)など、コンクールへの出品や展覧会への出展を支援する団体も現れて、古久保さんの絵画は海外でも展示されるように。今では、スイスにある世界で唯一のアール・ブリュット専門の美術館にも絵画を寄贈されています。  両親は、「初めてコンクールに応募した頃に比べ大きく人生が変わりました。先生や応援してくれる皆さんのおかげだと感謝しています。本当に大変だった時期もありましたが、あの時期があったから今があると思っています。息子のおかげで私たちも世界が広がりました。本当に息子に感謝しています。」と今までを振り返ります。  22歳となった現在、古久保さんは自ら車を運転し、あいとう和楽に通い、さをりを織る仕事をして、帰宅後に絵を描くという生活を送っています。「小さい頃はよくパニックになっていましたが、絵を通して自信がつき、落ち着けるようになりました。人前でも話せるようになりました。昔は人が大勢いる場所が苦手で、よく扉などに隠れていましたけどね。」と笑顔で話す古久保さん。これからも絵画のような古久保さんならではの彩り豊かな人生を描き続けます。  「絵は体の一部です。気持ちの整理をつけて、今後はさらに大きい作品を描き、世界を広げたいですね。」  写真=「自慢の息子です。」と笑顔で話すご両親  写真=総理官邸で開催された「安倍総理と障害者のつどい」での古久保さん(右から2人目)  写真=彩り豊かな古久保さんの作品 自宅などに大切に保管されています。  出会いは、彩り。  様々な出会いが、古久保さんの長所を伸ばし、人生を彩ってきました。22年間の出会いの一部を紹介します。 県立八日市養護学校 馬場功さん  古久保さんが八日市養護学校の高等部へ進学した時に、美術の担当をしていました。初めて絵を見た時に面白い絵だと感じました。1年生の夏休み前に担任の徳田先生からコンクールへの出品の相談を受け、協力しました。出品した作品は最優秀賞に選ばれました。  古久保さんには絵の才能もありますが、支援をする人を自然と集める魅力があり、それが彼のもうひとつの大きな力だと思います。  八日市養護学校には古久保さんのように絵やものづくりで才能を発揮する生徒が多くいます。彼らには表現力があります。作品の長所を生かし発表できる場があると本人や家族の自信につながります。その支援ができた時に私自身もやりがいを感じます。 社会福祉法人グロー 横井悠さん  私は、近江八幡市の美術館「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」で展覧会の企画などを行っています。  平成24年に館の企画展「ひそむ形 とけ出る色」への出展がきっかけで出会いました。彼の絵の最たる魅力は、そのダイナミックさです。見聞きした情報やその時々の感情が純度100%の状態で紙面に溢れ出しているからでしょう。  今まで様々な展覧会で古久保さんと関わり、絵を通して彼自身の変化を目の当たりにしてきました。いろいろな場所に行き、いろいろな人に出会うことで彼の世界観が広がっているのではないでしょうか。  これからも、自分のペースで生み出す古久保さんの絵を見つめていきたいと思います。 NPO法人あいとう和楽 西村まさこさん  八日市養護学校の高等部卒業後、平成25年からあいとう和楽に通所され、当初から担当しています。  あいとう和楽では、障害のある人が、さをり織りや木工製作、喫茶店などの班に分かれて働いています。古久保さんには、さをり織り班で織りや手作りの袋を作ってもらっています。通所当初に比べ集中して作業ができるようになり、今は小銭ケースなどをほとんど一人で仕上げることができます。休み時間には絵を描いており、古久保さんが絵を描くと自然と人の輪ができます。  これからも自分のペースをしっかり持って、成長していってほしいと思います。  写真=古久保さんが作った小銭ケース 企画展 アール・ブリュット ことばにできない心の表現 古久保憲満の世界  市内で初めて古久保憲満さんの作品が展示される企画展が開催されます。  県立八日市養護学校高等部在学中の作品から最新作までの100点以上が展示され、中には長さが10メートルを超える大作も展示されます。  時=1月13日(土)〜1月28日(日)午前9時〜午後5時(入場受付は、午後4時30分まで)  ※毎週月曜日は休館  場問=八日市文化芸術会館  電話=0748‐23‐6862  IP=050‐5801‐6862  FAX=0748‐23‐6863 指編みでクッションを作る盲ろう者 川瀬冨美子さん。自分らしく、生きるということ。  ご自宅のチャイムを押すと、チャイムに連動して揺れる胸のペンダントが来訪者を知らせ、元気に玄関まで出迎えてくださったのは、目と耳が不自由な川瀬冨美子さん(読合堂町)。家庭生活では、調味料に点字シールを貼るといった工夫をしながら手の込んだ料理も作られるなど、家事は全て自分で行われます。  生まれてすぐに耳が聞こえなくなり、50歳頃から徐々に目も見えなくなってきました。将来のことが不安になったそうですが、前向きにパソコンや点字の勉強を始められ、盲ろう者になって約20年が経ちました。今ではインターネットやメールのやり取りを点字に変換できる機械を通して情報収集・情報交換されています。手で触れて手話を読み取る触手話を使ってご主人との会話も弾みます。  外出時のみ通訳介助者やヘルパーの力を借り、買物や県内の目と耳が不自由な人が集い活動する NPO法人しが盲ろう者友の会へと毎日のように出掛けておられます。盲ろう者の集まる全国大会にも参加されています。  友の会では、指編みでクッションを作られるなど活動的な川瀬さん。「これからも美味しい物を食べて、あちこち旅行がしたい。」と笑顔で話されます。工夫をしながら楽しみを見い出す生き生きとした暮らしぶりは、周囲にも元気を与えてくれます。 障害のある人の働きたい!をサポート  障害のある人の就労の意欲をかなえることも自立や安定した暮らしを実現するために重要です。  本市では、東近江圏域働き・暮らし応援センターや特別支援学校、ハローワーク東近江、企業などが連携し、就業や社会生活上の支援を行っています。  11月9日(木)には障害福祉に携わる33機関で組織する「東近江圏域就労ネットワーク(いちおしネット)」が障害者雇用についてのきっかけや課題解決について情報交換をする「いちおしフォーラム」を開催し、今年は19社の企業と各支援機関が参加しました。 自分らしく生きるために  障害のある人が住み慣れた地域で自分らしく生きるためには、皆さんの障害のある人への理解を深める必要があります。市では、誰もが安心して暮らせるまちを目指し、各種事業に取り組んでいますが、平成28年度市民意識調査での障害のある人に対する理解度は、22.2パーセントであり、まだまだ理解が進んでいない状況です。  平成28年4月に施行された障害者差別解消法には「合理的配慮の提供」という取組があります。これは、障害のある人から助けや配慮を求められたら、自分のできる範囲で支援することです。例えば、聴覚に障害のある人には声だけで説明をせず筆談したり、視覚に障害のある人に書類を渡すときには読み上げをするといったことです。決して難しいことではありません。  互いに思いやりの心を持ち、障害のある人もない人も個性を認め合い、誰もが自分らしく生きることができるまちをつくりましょう。  問=障害福祉課  電話=0748‐24‐5640  IP=050‐5801‐5640  FAX=0748‐24‐5693