特集:『伊庭内湖』 里湖(さとうみ)と生きる  湖面にさざなみがゆらぎ 湖岸にはヨシが茂る 風に揺られ、羽繕(はづくろ)いする水鳥たち 多くの生き物を育(はぐくむ)里湖(さとうみ)、伊庭内湖(いばないこ) 未来に美しく守り伝えるために みなさんとともに『里湖づくり』・・・ ●里湖は、ふるさとの原風景  ヨシ原が四季の移ろいを伝え、魚や水鳥が集う。自然の中に人の声が響く。ふるさとの原風景ともいえるのが、里湖です。  かつては、湖上交通の要所や漁場としてにぎわい、ヨシや水草などを求めて多くの人が訪れました。人は、ヨシ原や水辺の手入れをし、里湖の自然は守られてきました。  しかし、生活の変化とともに里湖との関わりが次第に少なくなり、里湖の姿も徐々に変わってきました。 鳥の写真(チョウヒ、オオヨシキキリ、ミコアイサ) ●内湖は、生命を育む場所  では、内湖とは、どのようなものなのでしょうか。内湖は、もともとは琵琶湖の一部であったもので、風波や土砂の堆積(たいせき)などにより形成されました。約60年前、県内には40余りの内湖があり、総面積は約29平方キロでした。しかし、洪水の防御や干拓が進み、徐々に姿を消していきました。現在残る23の内湖の総面積は4.25平方キロです。 しかし、現在でも、県内のヨシ帯面積の60%は内湖にあります。また、原野の植物や在来魚の生息場所であり、水鳥には渡り途中に羽を休める場所となります。水草には水質浄化の作用もあります。内湖は姿を変えても、生命を育む場所として重要な役割を果たしているのです。 ●豊かな自然の象徴   そのひとつ伊庭内湖は、琵琶湖に注ぐ河川の河口付近にあり、大同川(だいどうがわ)、山路川(やまじがわ)、瓜生川(うりゅうがわ)、須田川などが流れ込んでいます。かつては、本市と安土町に広がる小中(しょうなか)の湖(こ)のひとつでした。  しかし、1940年代以降の干拓により、小中の湖がなくなり、干拓されずに残った大中(だいなか)の湖の一部が伊庭内湖と呼ばれるようになりました。  そして、伊庭内湖の大きな魅力が、豊かな自然です。伊庭内湖は、本市の豊かな自然を象徴する場所であり、生き物には生命を育む場所として、人には生活や憩いの場所として、多くの役割と魅力を持ち合わせているのです。 写真;夕日に映える湖面、ヨシガモ ●美しく伝えるために  私たちは、貴重な伊庭内湖を未来に美しく伝えていかなければなりません。それには次のような課題があります。  まず、生活環境の変化などによる水質汚濁や不法投棄による湖岸のヨシ原への散乱ごみの増大です。ヨシ原には、多くの廃船が投棄され、沈船も引き上げられています。ほかにも、ブラックバスやブルーギルなど外来魚の繁殖や、水草の過剰な繁茂も懸念されます。  また、多くの生き物が生息するヨシ原では、ヨシ刈りなどによる保全活動が広がってきていますが、良質なヨシ原となるよう全域への手入れが必要です。 写真:市原小学校の児童がエリ漁体験、市民などによる伊庭内湖の清掃 写真:冬には水鳥の飛来を楽しもうと、多く の人が観察に訪れます 写真:能登川西小学校では、児童がヨシの植え替えを体験 ●取り戻そう、里湖の輝き  市では、かつてのような伊庭内湖の豊かな自然を取り戻そうと、保全と新たな魅力づくりを進めています。  市総合計画の柱のひとつ「人と環境にやさしいまちづくり」を基本に、みなさんとともに『伊庭の里湖づくり』に取り組みます。  鈴鹿の山々から里山へ、そして河川へとつながる流れを琵琶湖と結ぶのが伊庭内湖です。この里湖づくりが、市全体の環境への取り組みへとつながります。  また、市民による保全活動が進んだり、学習のテーマとして学ばれるなど、伊庭内湖への関心が高まり、取り組みも盛んになっています。市では、この里湖づくりをみなさんと一緒に進めていきます。 ●伊庭内湖は、大切な宝物  多くの役割や魅力がある伊庭内湖は私たちの大切な宝物です。里湖をはじめ、里山や河川を守る。それが、伊庭内湖をはじめとする、かけがえのない自然の保全にもつながります。  みなさんも伊庭内湖について考え、できることから始めてみましょう。そして、伊庭内湖に出かけ、新しい魅力を見つけてみませんか。 -------------------------------------------------------------------------------- ●これが伊庭内湖 それぞれ写真あり ◇市の西端近く、流れは穏やか  市の西端部に近い能登川地域に広がり、面積は49ヘクタール。  水位は琵琶湖とほぼ同じで、流れは穏やかです。 ◇固有魚の貴重な生息場所  ホンモロコ(写真)、ニゴロブナ、コギギなど固有種の産卵と生殖の場所あり、貴重な漁場にもなっています。 ◇二千羽以上の鳥たちが訪れる  カモやカイツブリ、サギやタカなど100種類近く、多いときには二千羽以上の鳥が羽を休めます。 ◇広がるヨシ原  湖畔の湿地には、広い範囲にヨシが茂ります。特に内湖の南西部の約1.5キロは、県のヨシ群落保全地域に指定され、保全活動が盛んです。 ◇人が集う、憩いの場所  釣りやカヌー、湖岸ではウォーキングや大規模自転車道でのサイクリングが楽しめます。また、関西最大級の直径13メートルの水車(写真)が回る 広場には家族連れなどが集います。 ●船で見た大きな鳥にびっくり 中村千春さん(小今町)写真あり  昨年、伊庭内湖に初めて出かけて、湖上観察会に参加しました。船に乗って見つけた大きな白い鳥にびっくりして、そのことを船でスケッチにしました。水しぶきも気持ちよかったです。  水がもっときれいになったらいいなと思ったし、今度はすんでいる魚も見てみたいです。 ●伊庭内湖から市全体を美しく 伊庭内湖の自然を守る会会長 長谷川美雄(よしお)さん(小川町)  身近にある伊庭内湖の自然を守ろうと、3年前に結成しました。38人のメンバーで、湖底にある汚泥の清掃をはじめ、野鳥や魚、水草の観察、ヨシ原の保全に取り組んでいます。  また、みなさんに親しんでもらおうと、外来魚駆除にもなる釣り大会を開催しています。  今後は、多くの人と協力して伊庭内湖を守り、美しい東近江市にしていきたいですね。 ●みなさんと取り組む 伊庭の里湖づくり それぞれ写真あり ◇知る  約200人が参加した昨年の湖上観察会(写真)では、参加者が船上で説明を受けながら伊庭内湖の現状や課題について学んだり、鳥やヨシ原などの風景を楽しんだり、大切にしたいところをスケッチして、じっくりと観察しました。  ほかにも、市民などによる野鳥観察会も催され、豊かな自然を知る機会となっています。 ◇考える  4月には、伊庭内湖の保全、再生について考えるフォーラムを開催し、講演やヨシ笛コンサートなどで伊庭内湖の大切さを再認識しました(写真)。会場では、次世代に伝えるためできることを考えようと、『伊庭の里湖キックオフ宣言』をしました。  今後は、里湖をいかしたまちづくりをテーマに、将来の姿や必要な取り組みを考えたり、固有魚のブランド化を検討し、全国に魅力をPRします。 ◇動く  昨年、ヨシの良さを知ってもらおうと、刈り取り体験を開催しました(写真)。新芽の成長を促し、良質のヨシを育てるヨシ焼きも、地域により今年約30年ぶりに催されました。ほかにも、高校生によるヨシを活用した新し い魅力づくりも進んでいます。  今後は、魚類の産卵や繁殖の場所であるヨシ原の状態が悪化しているため、廃棄物や過剰な水草を取り除き、生息環境を回復していきます。 問=生活環境課 電話=0748−24−5633 IP=050−5801−5633