【特集】 『獣害対策』 大切な農作物を地域で守ろう  野生動物による農作物の被害は、農家にとって深刻な問題です。平成20年度の被害金額は、本市で2300万円にも上ります。そこで今回は、被害金額の多い、イノシシ・ニホンジカ・ニホンザルといった野生動物から農作物を守る方法について考えます。 ●なぜ、野生動物が出没するのか  市内の各地では、近年、野生動物による被害が増加しています。カワウによるアユなどの被害、シカによる水稲などの被害や車との交通事故、サルによる野菜や果樹の被害が発生しています。最近では、山間部だけでなく平野部でもイノシシが出没し、大切に育てた稲を踏み倒してしまう被害もでています。  これらの被害の増加は、暖冬による越冬率の増加や里山の荒廃などが原因と考えられています。 (下図「獣害に特効薬なし」) ●まずは数を減らす  被害を減らす方法の一つに、鉄砲やワナによる捕獲があります。本市では永源寺地区などの山間、山麓部を中心に野生動物を捕獲していますが、最近では、八日市地区の平田や玉緒、蒲生地区での捕獲数が増えています。特に、シカについては、平成16年以降、捕獲が急増し、猟友会で捕獲していただいたのは、平成20年度で900頭(市の依頼分562頭含む【下グラフ 有害野生動物の捕獲数】)ですが、被害は軽減できていません。そこで、より捕獲を進めるために、本市では、農家によるワナ免許取得の推進をしています。 ●野生動物の棲家をなくす  手の入っていない里山の整備や何も作られていない田畑をなくすことは、野生動物の棲家(生息地)をなくすことになります。  特に田畑周辺に手入れをされていない竹やぶや自然林、または間伐や枝打ちができていない人工林(植林した林)があると動物にとって絶好の棲家になります。  また、竹やぶは春先の餌の乏しい時期に、タケノコがでることから、動物に棲家だけでなく餌まで与えてしまうことになります。このような居心地の良い場所に動物は長く滞在し、無防備な農作物に被害を与えます。  昨年末、動物の棲家となる手の入っていない里山を地域ぐるみで整備することで、被害を大幅に減らすことができました。愛東外町や永源寺高野町では、地域住民が田畑に隣接する竹やぶや自然林を約11ヘクタール伐採したところ、周辺で活動していたサルの群れ(54頭)が両町を避けて通るようになったことが滋賀県立大学の調査でわかりました。  また、整備された里山や耕作を放棄した土地の草対策として家畜の放牧が効果的です。市内でも永源寺相谷町、池之脇町や愛東外町などで実施されています。人が田畑や山で家畜の世話をすることで、近づく動物に対して威圧にもなり、放牧地周辺ではサルの出没が減りました。 ●自分たちの田畑は自分たちで守る  野生動物に対する餌付け行為をしないことや花火などを使っての追い上げ活動、侵入防止柵の設置などにより、自分たちの田畑を守ることが大切です。 @餌付け行為をしない  収穫しない果実や野菜を山林などに放置することは、動物に対する餌付け行為を無意識にしていることになります。このような餌は、動物の増加に拍車をかけるため、必ず土の中に埋めましょう。 A追い上げ(追い払い)活動  追い上げ活動には、ロケット花火を使うと効果的です。サルは、学習能力が高く、花火などで追いかけてくる人間と何もしない人間を見分けることができます。集落に出てきた動物に威嚇もしないで通り過ぎると、動物にとって「人間は怖くない」と思わせる「人慣れ学習」にもなります。  昼間、地域におられる高齢者が中心となって、ロケット花火を利用して追い上げを実施している自治会もあり、地域の田畑は地域で守るという共助活動が大切です。 B防除柵の設置  防除柵の設置により、物理的に野生動物が田畑に入れないようにする方法も有効な手段です。しかしながら、設置後の維持管理ができてないことにより、効果が現れないことがあります。シカやイノシシから効果的に農作物を守るためには、最低2メートルの高さの柵が必要です。柵の後ろに雑木林や竹やぶがある場合、柵との距離を約10メートル伐採することで、動物の隠れ場所が減り、また、柵が破られた場合の発見が早くなり、維持補修が容易になります。(下表 「獣害柵設置状況」(東近江市)) ●最後に  本市では、近年深刻になっている動物の被害に対して、地域のみなさんと協同で対策を行っています。現在、獣害対策に期待されている「モンキードッグ」も養成しています。(下記「モンキードッグを養成」)  また、サルやシカに発信機を付けて、行動範囲や生態を調査することにより、効率的に対策ができます。しかし、獣害対策は、地域の人で地域の田畑を守るのが基本です。地域のみなさんで、被害の原因を調査し、地域全体で田畑を守ることが大切です。 ◆モンキードッグを養成  人間による追い上げ活動の補助的な役割を担うモンキードッグ。モンキードッグが活躍できる場所は、野生動物の棲家をなくす里山整備がすでに行われていることが必要。特にサルの被害対策に有効と期待されています。(写真あり) ◆緊急雇用対策 獣害対策として里山整備  昨年度、本市では緊急雇用対策として獣害対策緩衡帯(里山)整備を行う作業員を募集しました。  里山整備を愛東外町自治会を中心にすすめていましたが、昨年秋からの世界同時金融危機の影響を受け、本市でも失業率が高くなったため、緊急雇用対策の受け皿として募集。募集人員10人のところ予想をはるかに超える60人の応募があり、緊急雇用対策であることから、広く多くの人に仕事をしていただこうと作業期間を2つに分け、1班10人、2班体制で整備を行いました。(写真あり) ◆野生動物から田畑を地域で守る ◎餌付け行為をしない  山林に捨てられた果物。人間にとってはゴミでも、野生動物にとっては貴重な餌です。  また、放置された田の二番穂から1アール当たり48kgの米がみのり、冬期のシカの餌になります。(写真あり) ◎里山の整備  野生動物の棲家となる里山を地域で整備。獣害は、地域全体の問題として取り組むことが大切です。(写真あり) ◎追い上げ活動  ロケット花火による追い上げ活動。サルの追い上げには一番効果的で、地域ぐるみで活動することにより、被害が軽減したところもあります。(写真あり) ◎防除柵の設置  柵や網で農作物を囲い、野生動物から守ることも効果的です。破られた柵はすぐに修復し、被害を最小限にすることが大切です。  また、農作物は柵からある程度空けて栽培し、見つけにくく、取りにくいようにしましょう。(写真あり) 【図 「獣害に特効薬なし」】 ◆原因  @動物の増加   ・暖冬による野生鳥獣の越冬率の増加   ・狩猟者の減少  A動物の棲家(生息地)が拡大   里山の荒廃や耕作を放棄した土地の増加  B人間の生活地域への出没   農村の過疎化により、人からの圧力が減少 ◆対 策  ◇野生動物の数を減らす  ◇野生動物の隠れ場所をなくす  ◇野生動物に田畑を荒らされないように囲う 【グラフ 「有害野生動物の捕獲数」(東近江市)】 単位:頭 ◆ニホンジカ      平成16年度  平成20年度      八日市    22     58  永源寺    81    400  湖 東     1      5  愛 東     8     40  五個荘     0      0  蒲 生     9     59  能登川     0      0 ◆イノシシ      平成16年度  平成20年度      八日市     0     15  永源寺    34     26  湖 東     0      0  愛 東     0      3  五個荘     0      4  蒲 生     3     11  能登川     3      0 【表 獣害柵設置状況(東近江市)】 ◆永源寺地区 10km   石谷町    金属フェンス   一式町    金属フェンス   新出町    金属フェンス   市原野町   金属フェンス   高木町    金属フェンス   上二俣町   金属フェンス   池之脇町   金属フェンス   山上町    金属フェンス   永源寺相谷町 金属フェンス   和南町    電気柵   甲津畑町   電気柵   永源寺高野町 電気柵 ◆蒲生地区 7km   鋳物師町  金属フェンス   葛巻町   金属フェンス   蒲生岡本町 金属フェンス   平林町   金属フェンス   横山町   金属フェンス ◆愛東地区 12km   平尾町  金属フェンス   市ヶ原町 金属フェンス   大覚寺町 シカ用ネット   上山町  シカ用ネット   百済寺町 シカ用ネット   北坂町  シカ用ネット   愛東外町 シカ用ネット   小倉町  シカ用ネット ◆湖東地区 1km   祇園町  電気柵 ◆八日市地区 6km   瓜生津町   シカ用ネット   土器町    金属フェンス   上大森町   金属フェンス   布施町    金属フェンス   上羽田町南方 金属フェンス   中羽田町   金属フェンス   下羽田町   金属フェンス *地区ごとの距離は、これまで設置された柵(ネット)の総延長距離。(平成21年5月1日現在) 写真:里山整備で見通しがよい山となり、野生動物の出没が激減(雪野山周辺) 写真:家畜の放牧は、下草を食べるだけでなく、世話をするために人が山に近づくことで野生動物が避ける効果もある。(池之脇町) 写真:シカに発信機を付けて、行動パターンを解析し、効率的な捕獲に役立てています 写真:シカが集団で同じところを通ることによってできた獣道 問=農林水産課   電話=0748−24−5660   IP=050−5801−5660