【特集】 「くらし」と「生きもの」との共生を考える 生物多様性(せいぶつたようせい) ■記号は、問=問い合わせ先、IP=IP電話になります。 1年間に絶滅する生きものは約4000種  〜13分ごとに1種類の生きものが地球上から消えている〜 「うさぎ追いしかの山、小ぶな釣りしかの川〜山は青きふるさと、水は清きふるさと…」  日本人が心のやすらぎを感じるふるさとの風景が変わりつつあります。私たちのくらしと生きものとの関わり〜「生物多様性」について考えます。 ●「生物多様性」とは  現在、地球上には約175万種、未知のものも含めると3000万種の生きものがいるといわれています。ひとや動物、草花、小さな菌や虫などの生きものがさまざまな環境に適応し、互いに関わりながら、地球の環境を支えてきました。自然が造り出したこの生きものの命のつながりを「生物多様性」と言います。 ●「生物多様性」がなぜ大切か  生物多様性は自然の恵みそのものであり、私たちの暮らしと深いつながりがあります。昔から食べものをはじめ、燃料や木材、衣料品、薬、水などはすべて豊かな自然からもたらされてきました。最近でも農作物の品種改良や病気やけがを治す新薬の開発研究、環境との共生を探るバイオテクノロジーなどの先端技術などは、生きものの多様性なしに進歩はありません。  また、森林や田畑がたくさんあることで、気候が穏やかになったり、洪水を防いだり、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を吸収することができます。  「生物多様性」に恵まれた地域は、私たち人間にとっても大きな自然災害や伝染病などをしのぐのに有利な環境です。 ●危機にある「生物多様性」  年配の人とお話しをすると「昔はこの辺にもアユが上がってきて、よう捕まえたもんや」とか、「子どもの頃、裏の山ではカブトムシやクワガタムシが毎年、何十匹も捕れたんやで」というような思い出話がよく聞かれます。ある生きものが絶滅したり少なくなることは自然界の流れの一つですが、近年では、この100年間で失われるスピードが急速に進み、特に1970年以降は、過去6千万年の絶滅スピードと比べて1千倍から1万倍も早いという国際自然保護連合(IUCN)の報告もあります。  さまざまな生きものの種類や数が減り、生きもの同士のつながりがうまく保たれていない「生物多様性の危機」は、近年の地球温暖化とならぶ深刻な世界的問題です。 ●東近江市の生きもの  本市の東部は鈴鹿の山々が連なり、西部は琵琶湖に面しています。総面積の57%は森林で、総延長1キロメートルを超える大小の河川が44本、約7800ヘクタールの田畑とおよそ100か所のため池や内湖がある自然に恵まれたまちです。これら多くの山林や田畑などの農地は、古くから人の手が入ることによって、固有の生きものや植物の種類・数が適切に管理され、くらしとの調和が保たれてきました。  しかし、私たちが便利で快適な生活を求め、生活様式や価値観を変えるにつれて少しずつ自然も姿を変えつつあります。  例えば、かつては市内のどこでも見られたメダカやタガメ、ゲンゴロウなどは絶滅危惧種に指定され、ほとんど見られなくなりました。ホトケドジョウやモリアオガエルがいる地域も年々限られてきています。このことは、山間の田畑など、里山・里地に人の手が入らなくなり本来の環境が荒れてきていることを示しています。また、琵琶湖に近い水辺ではブラックバスやブルーギルなどの外来魚が増え、生態系や漁業に大きな影響をおよぼしている所もあります。 ●東近江市の取り組み  本市では、市民の大切な財産である自然環境と生きものの多様性を守り、次の世代に伝えていくため、平成18年に「東近江市民の豊かな環境と風土づくり条例(環境基本条例)」を制定。翌19年には「東近江市自然環境及び生物多様性の保全に関する条例」を制定しています。これは生物多様性の取り組みを条例で定めた全国でも数少ない先駆的な条例です。  さらに、平成20年には「結(ゆ)いのせせらぎが明日につづくまち〜東近江市環境基本計画」(写真あり)を定め、本市の豊かな自然と私たちの暮らしが調和を保ちながら共に歩んでいくための方向を示しています。 ●東近江市の生物多様性を守る  東近江地域では古くからお寺や神社に対する信仰にあつい地域や、共有の財産である川や山の利用に厳しい取り決めを設けてきた地域が多く、今日でいう「自然との共生」や「エコライフ」は日常生活の中で自然に受け継がれていました。  生物多様性を守るためには、「きまり」や「しくみ」をつくるだけでなく、なるべく多くの人の関わりによって「できることから行動する」ことが何よりも大切です。自然や生きものとの良い関係を次代に残していくために、まず次のことから始めてみませんか。 (1)身近な生きものや自然を知る  まずは、親子や友だちと一緒に自然や生きものについての知識を深めましょう。「河辺いきものの森」をはじめ、能登川博物館や市内の図書館では専門スタッフによる身近な自然や生きものとふれあう体験講座や講演会、企画展などを定期的に開催しています。学校や愛好家のみなさんが開催する自然観察会にも参加してみましょう。 (2)生きものや自然との関わりを意識した生活を考える  毎日の生活から出るゴミや排水に気をつけて、環境や生きものに負担をかけないで生活する方法を地域や家庭で工夫しましょう。また、無責任なペットの飼い方も、ペットが野生化し生態系を乱す原因にもなります。 (3)身近な生きものや自然を守る活動に参加する  自治会やまちづくり協議会、ボランティアが行う里山保全活動や水辺、河川の清掃活動に参加することは、生きものの環境を守るために最も効果的な方法です。また、「環境こだわり農業」に取り組む農家や、ISOなどの環境マネジメント活動や新エネルギーに取り組む事業所が増えるとさらに大きな効果が期待できます。  自然界の生きものはすべて食物連鎖の大きなピラミッドによってバランスが成り立っています。(下図)例えば、ハチやアブがいなくなったらどうなるでしょう。人は刺されなくなって安心ですが、植物の花粉を運ぶことができなくなり、果物や野菜などの食料が充分に栽培できなくなります。  また、田んぼにすむカエルは稲につく害虫をえさにしますが、鳥やけものに食べられます。カエルがいなくなると、田畑では害虫が増え、鳥やけものも減ってしまいます。カエルがいなくなる地域は、農地と山林の両方の環境が荒れつつある地域であるといえます。  その地域の歴史が育んだ生きものがそれぞれにふさわしい環境で生き続けるためには、健全な生態系が持続するよう、人間の活動を自然と調和させることが大切です。  お盆が近づき家庭や親しい人と一緒に過ごす時間も増えてくるこの時期、忙しい毎日の中で忘れがちな「自然との調和のありがたさや」「いのちの大切さ」について話し合ってみませんか。  ◇図 食物連鎖のピラミッド      大型肉食動物      肉食動物・鳥など      昆虫・草食動物など      植物      細菌・微生物など ◆いつまでも一緒にいたいね 東近江市のなかま  あなたはいくつ知っていますか (1)クマタカ(写真あり)    古い屏風絵などに描かれているのがこのタカです。森にすむ小動物をエサにするため、山が荒れると激減します。現在、絶滅危惧種に指定されていますが、永源寺地区の山間で生息が確認されています。 (2)ホトケドジョウ(写真あり)    かつては市内の小川や田んぼでたくさん見られましたが、現在は、絶滅危惧種。他のドジョウと比べて、頭が三角形で平べったいのが特徴です。昨年、愛東地区の山間の小川で生息が確認されました。 (3)モリアオガエル(写真あり)    水辺に近い雑木の上で、生活する4〜6cmのカエル。梅雨の頃に木の枝に泡状の卵を産みつけます。雑木に囲まれたきれいな水辺が減ってきいるため、最近では愛東地区や永源寺地区の山間でしか見ることができません。 (4)ギンリョウソウ(写真あり)    色素を全くもたない植物。梅雨前のごく短い時期に雑木林の根元に生えます。森の中で白く浮かびあがるので、別名ユウレイダケとも呼ばれます。鈴鹿の山道などで見つけることができます。 (5)ホウネンエビ(写真あり)    田植えの季節に現れる2〜3cmの生きもの。あお向けに泳ぐ姿がユニークです。一時は、開発や土地改良などで田んぼから消えましたが、最近では市内の各地で見る機会が増えています。 (6)ハリヨ(写真あり)    ハリンパ、ハリンサバとも呼ばれる魚。体長4〜6cmで背中に三本のとげがあります。現在、絶滅危惧種で能登川地区や五個荘地区の川でわずかに生息しており、地域ぐるみで守っているところもあります。 ◆絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)  絶滅のおそれのある野生生物のこと。日本で環境省が「レッドデータブック」として発表していますが、約2,700種類の動植物が指定されています。 ◆生物多様性を考えるものさしは3つ  みなさんの身近な地域でも考えてみましょう。 (1)生態系の多様性    地域に、自然林や里山林・人工林などの森林、湿原、河川など、いろいろな自然環境がありますか? (2)種の多様性    地域に、鳥や魚、虫、木、草などいろいろな生きものや植物がすんでいますか? (3)遺伝子の多様性    同じ種類の生きものでも、地域や自然条件によって体の形や行動などの特徴に少しずつ違いがあるものがいますか? ◆伊庭内湖は生きもののゆりかご  日本野鳥の会滋賀支部長 石井秀憲さん(躰光寺町 写真あり)   子どもの頃から生きものが大好きでした。伊庭内湖周辺の野鳥の魅力にひかれ、10年ほど前から探鳥会や野鳥保護の活動に取り組んでいます。平成17年には日本野鳥の会滋賀支部が発足しました。現在会員は350人。県内を見渡しても水鳥の営巣地になるヨシ原が多いこの地域は貴重です。コハクチョウやマガンが飛び交う風景がいつか見られたらと思っています。 ◆身近な自然は地域の手で  林田の地域を考える会 西村治さん(林田町 写真あり)   昭和50年頃から、鈴鹿山系の植生を調べていますが、里山に近い農地では2/3が外来種に変わってきています。地域のみなさんに身近な自然の良さを知っていただきたいと思い、平成11年から『はやしだ環境通信』を毎月発行しています。最近では農地や中山間地への関心も高まってきているので、地域ぐるみの活動がもっと高まればと期待しています。 地域学芸員と一緒に猪子山のキノコについて学習する子どもたち(能登川博物館 写真あり) 愛東北小学校児童によるメダカの里帰り(大覚寺町の豊国溜 写真あり) 自然の中で、クイズを解くことによって生きものについて楽しく学ぶ参加者(河辺いきものの森 写真あり) ●環境にやさしいくらしを応援します ◇住宅用太陽光発電システム設置補助制度  本市では、市民のみなさんに新エネルギーに対する意識を高めていただくために、太陽光発電システムを導入するための補助をしています。 補助の対象=自らが居住する住宅(店舗、事務所などとの併用住宅を含む)の敷地または建物への設置 補助金額=1kwあたり2万円(限度額10万円) *詳しくは生活環境課までお問い合わせください。 問=生活環境課 電話=0748−24−5633 IP=050−5801−5633