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地元学をはじめよう その1

「心象図法で地元学」

(2006年9月30日(土) あかね文化センター小ホール)
講師:上田洋平

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地域曼荼羅をつくる

 で、こういうアンケートが出てくると、いろいろなことができるんです。たとえば、ここに出ているのは、地域曼荼羅というものをつくる。これ、どういうものか。アンケートの回答を一つ一つバラバラにしていきます。いろいろな体験をバラバラにしていく。これ、カッターで切ってバラバラにしていく。で、これはどうも田んぼの体験だな、これはため池の体験だな、これは家の中かな、これは春のことかな、夏のことかなということで、似たものを集めて並べていったんです。田んぼのことはこの辺、畑のことはこの辺、そうやって並べていく。そうすると、こういうものができる。

 これは何か。みなさんが五感で普通に体験された思い出を並べていくと、これは今津町の方の集落でつくったものですが、山から畑があり、村があり、川があり、田んぼがあり、沼、内湖があって、浜があって琵琶湖がある。そういう地図ができた。こういうものをつくって、自分でビックリしました。あ、地域で生きている人は、自分の体、五感で地域の隅から隅まで、生活の中で体験をして知っている。それが地域の人の心の中に染みついていて、それでこんな地図ができる。自分が60歳や70歳になって同じようなアンケートをした場合、自分の地域のこと、山から琵琶湖までこんな地図が描けるだろうか。本当にこの地域のことを体で知っていただろうか。ぶつ切りになって、地域のこと、本当に知っていないんじゃないか。そういうことに気づいた。それがビックリしたことですね。

 ですから、大塚の場合でも、これを基にすれば、こういう集落の生活の思い出の見取り図というものができるはずなんですね。それはしかも、学校で、本に書いてあることではない。お一人お一人の日々のあたりまえの体験の中から出てきたもの。そういう心の中に眠っていた地域の姿。これを表現することができる。それがそこにいろいろ出ているものであります。

並べ直しの中で、あふれ出す暮らしの記憶

 これは、地域の老人会の方と協力して、このアンケートを使って同じようなものをつくりましょうといって、並べていった。そうするとね、一つ読み上げるとそこから20分も30分も話が続いていく。「小屋で俵やさんだわらづくりをしましたよ」と。それをこうやって並べていきたいのですが、それを読んだとたんに、「さんだわらってのはこんなんでこんなんで・・・・・」ずっとしゃべっていかれる。それは、この思い出というのが本当に氷山の一角のように、その下に毎日の生活がつながっている。だから、これをつくるときは大変でした。一つ出す度に何分も何分もしゃべる。

 で、あるいは子どもというか、若い人、学生さんとつくった場合がある。こんなこともできるんです。思い出を並べてみると。これ、思い出花火という、形がそんな形ですから並べてみたんですね。下にもあります。あとでゆっくり見てください。田んぼの思い出をこう並べてみたんです。春から秋まで。色を変えて塗ってみた。「田んぼでヒルが足にひっついて痛かった、痒かった」「血が止まらんかった」というところから、「ずっと稲刈りは一株一株手で刈った」、そういうところまで。あるいはレンゲの色に塗ってみた。菜の花の色に塗った。川がたくさんあって、クリークがあった。小川があったので、その色に塗って、それに関係する船の形とか描いてみた。また近くでご覧いただいたらいいと思います。

 これを見たら、たとえば大塚でつくったら、大塚のみなさんはこの地域でこういう体験をしてこられたんだ、こういう思い出があるんだと、つくりながら若い人も知る。そして、この一つ一つを聞いてみたいなという思いにかられる。さっきも、いろいろな食べものが出てきて、おいしそうやな、これ食べてみたいなあとかいうのが出てくる。

 これはまた別でして、これは今そこに出ている絵図をつくるときにつくったんですが、ここは内湖があります。ため池と同じような、ため池よりもう少し規模が大きいですが、そうするとその集落では、水辺に対する体験がものすごくたくさん出てきたわけです。水辺の思い出だけでこんなにようさんある。魚をつかんだ、それを食べた、貝を採った、あるいは泳いで冷たかったとか、先輩に放り投げられて泳ぎが上手になったとか、そういうのがいっぱい出てくる。今の子どもたち、こんな体験してるかなあ。私でもしていないから。この内湖でこんなに豊かな経験ができたんだ。今は守るか壊すか。あるいは、危ないから入ってはいけません。汚いから泳いではいけません。獲った魚は汚れているから食べてはいけない。そんなことになる。

 こういうのができる。みなさんのあたりまえの体験、それだけでもこんなに印象深いものができる。それを見れば、大塚の暮らしはこんなんだったのかなと想像ができる。しかし、先ほど言いましたように、これを読んでいくと、もっと豊かな物語があって、この思い出のひとかけらが出てくる。それを、この方法では聞き取り調査というものをしていくわけです。五感の体験から地域の暮らしを聞いていく。

 これから大塚においても、アンケートをざっとやらせていただきましたが、ひょっとしたらまだしていただいていない方は、またこれを書いていただくかもしれない。この体験がたくさんであればあるほど、充実した絵ができる。それを基に聞き取り調査をしていく。さっき出ていた牛を飼っていた、その牛小屋の匂い。それはどんなでしたか。牛小屋がここにあって、昔は牛は大事だったから、玄関を入ったら仏壇と仏さんと牛が差し向かいで、玄関入って「こんにちは」と言ったら、右側から「モー」という声がしたとか、そういうことをずっと聞いていく。物語の骨組みをこのアンケートでうかがいました。それを基にお話を聞いていく。非常におもしろいことがたくさん分かってまいります。

海津の桟橋の思い出

 この間、海津という集落に行ってきたんです。そこでは、桟橋があって太湖汽船という船が出港する。アンケートには「子どもたちは、太湖汽船の桟橋周辺で泳いだ」とありました。で、「これはどういうことですか」と聞いたら、「太湖汽船が来て、船が出る頃になると」、バックすることをゴスタンと言うらしいんですが、「ゴスタンするぞというと、その船の舳先につかまって、バアッと船と一緒に泳ぎながら引っ張られていく。そういう遊びをした」。そういう思い出が語られる。それで、ここらの子は大変泳ぎが上手だと。

 でも、たまにスキー船というのが冬にやってくる。そうすると、スキー船はお客さんを乗せてくる。昔はそこで、スキー船が来ると海津のその桟橋周辺に、「ナタギレちゅうのがよう浮かんだ」と。「ナタギレって何ですか」って聞いたら、「スキー船来るやろ。お客乗せてくるわな。太湖汽船は始終行ったり来たりしているけれども、スキー船はしばらくそこに停泊する。そうすると、お客さんのした下のものを、そこでパアッと捨ててしまう。捨てて浮いたのを、私らナタギレって言うんじゃ」と。「ああ、今日はナタギレようけ浮いたわ」とか、そんなことを言う。そんな話がずっと出てくる。ちょっと下の話で汚いですが。臭いけれども、昔は3尺流れたら大きな川と一緒やと言うて、「その隣で洗濯してたんやで」と。「そのナタギレは、魚がつつきに来て食べてたんや。で、きれいになったんや」というようなことを言ってはった。

 そういうのを聞いていく。大塚でもこれからそこに入らせていただく。アンケートがあると、みなさん、自分で身に覚えのあることだから、地域ってどうですかと聞かれるよりも、より豊かにいろいろな話が出てきましょう。これをご覧になって、「ああ、そうやったな」ということが自然に思い浮かぶ。それを、録音したり編集して、聞き書き集というものにしていきます。こういう冊子をつくったり、大塚ではどうなるかわかりませんが、聞いた話から地域の他の教科書には載っていない、みなさんの体験の中から紡ぎ出された生活の物語というのを記録していくわけです。こういうものができます。今回はここまでいくか、ちょっとわかりませんが。

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