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人と自然を考える会
所在地
滋賀県東近江市八日市金屋2丁目6番25号
東近江市立八日市図書館内

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FAX:0748-24-1323
 
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地元学を知る

「地産地消で地域の再生を」

 地元学であるものさがし

(2006年10月9日(月・祝) 愛東福祉センターじゅぴあ)
講師:結城登美雄

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生きものを食べるということ

 これは鳥海山麓の山形県の湯沢町でありますけれども、非常に水のきれいな月光川という川がありまして、大きな湧水がこうあって、そこを鮭が上ってきます。鮭は4年か5年かけて戻ってくるわけですが、この鮭を捕獲しているのが農家の人です。牛渡り川という所がありまして、いろいろおつきあいさせていただいておりまして、鮭は食べるために人間は捕りますが、この頃これはほとんど売れません。川に上がった鮭はおいしくないということで売れないんですね。海の定置網はまだ産卵前、川に上がらないんで、白鮭ではないから一応は高く、高いといってもたかが知れていますけれど。で、この日確か300匹ぐらい帰ってきたわけですが、これ、おばちゃんが棒で、ゴンゴン、「鮭打ち棒」って言いますけれど。見てて、せっかく4年かけて戻ってきたのにね、「一瞬でポコっとやられるのもかわいそうだな」なんて思いながら僕も見ていたわけですが、「あんまり写すな、写すな」と言われたのですが、最後は「いいよ、いいよ」って言って、こんなふうに。

 これが食べるということなんですね。生きものを「食べる」というのはこういう仕事が必ずあるんだということであります。その生きものに対してありがたく「いただきます」ということになるわけで、これが「食育」の基本だろうと私は思っています。だから、こういう現場を避けて、お皿に盛られた、テーブルに盛られた食卓から始まるとなんだか、「栄養が良い」とか「バランスが悪い」とか「ビタミンAが多い」とか「少ない」との話になってしまいますが、私は食育はこういう元方から子どもたちに伝えてあげたいなと思っています。子どもだけじゃなくて大人もそのことを学ぶ。そうすると当然ながらこうやって鮭の卵を捕ったりしている、こういう人たちも作業をしながら思うことはいっぱいあるわけでありますから、それを思うと、必ず5千匹捕れるごとに供養塔を建てています。これを生業にしなければこの土地を生きられない、だけどそれは生きものを殺すことになる、ごめんなさい。それが鮭の卒塔婆であります。それが村のいろんな所に隠れています、鮭供養という。それは生きもの供養はいろんな所にあり、この近江にも多いのではないかと思います。

 こういうものと向かい合う場所が東京にはありません。近江にはあります。農山村、漁村にあります。そこで食べものというものと人間ということに向かい合う場が、東京にはレストランはありますが、それはおいしいレストランでしょうが、ただ食べものを考える、食べものが大事である。食育とは何かといったら、たった一言「食べることの大切を考える」ということです。食べものは大事だとか、食べものの大切さを身につけるということなんですよ。それに僕は尽きると思っています。これは食べることの大切さをよく分かる人たちが、それでもそれを食べるために伴う、魚を殺さざるを得ない、牛や豚やニワトリを殺さざるを得ない人の方がはるかに食べる大切というものを考えているはずであります。

自然のサインを読めるのが漁師

 ウナギ。この人たちが一番自然というものの…自然や風土、風土というのは四つ要素があります。水と風と光と土というこの四つです。水と風と光と土です。これは風力発電をしている立川町という所で、そこの最上川という所で、これもこの辺の葦で編んだり、竹で編んだりしてますが、これをどの角度にどの位置に、たとえば目安は「猫柳が芽吹いたら、ヤツメウナギはあがってくるぞ」と。こっちの方に鳥海山というのがありまして、この所に「西風が吹いたら雪解けは遅い。南風が行ったら少し溶けるから二日後には上がるぞ。」そんな風にして全部サインを読んでいます。

 サインを読めるのを漁師といいます。自然のサインを受けとめて判断していくのを漁師といいます。そういう判断なく計器を見て判断しているのを漁船員というふうになるわけであります。漁船員と漁師は違うわけであります。漁船員は経済に寄与するけれども、漁師はあまり経済に寄与しないから軽んじられているのかもしれませんが、自然というものについてよくわかっているのが漁師さんであります。これおじいちゃんにこの川のことを話せば、3日でも4日でも1週間でも、尽きることなく話を聞かせてくれるわけです。ただ私たちが問う力を持っていればということでありますけども。

5戸18人の一人一芸の力

 これは自然を活かすということを、自然を知らなくていいんです。知識はあんまりいらないんです。自然をどう活かすかという意識を僕らが持つこと、それによってどう活かすかっていったときに、これは多分、小さな、ここは標高300mぐらいですから、その300mの山からちょろちょろ流れてくる沢の水で、こういう所に水を溜めると重くなって、「ししおどし」みたいにザーッと流れる。そうするとこっち側に臼が置いてあって、空臼に対してそれで精米精白をする道具。バッタリーと呼んだりしています。この辺にもあるんではないかと、かつてはあったのではないかと想像します。

 村のありようについて、僕が今まで一番…これはガマの穂で編んだ、ガマの穂がありますね、この辺どうですか。耕作をやめられて茅原になる前に、ガマが出てくるはずです。お花なんかでもお使いになる方がいらっしゃると思いますが、このガマの茎で、むしろを編んでます。なかなかいいむしろになりますが。ここにこんな言葉、僕が今まで東北で会って、村を考えてよくしていくための一番の基本がここにあるなと思って。これ木藤古さんていうかつて農協に勤めてたんですが、お辞めになって。5戸18人の村です。日本短角牛の故郷でもありますけども。昔ながらの牛の飼い方をしてる所で、雪はそう多くありませんけども、5戸18人が。

 『タイマグラ』をご覧になった方はお分かりだと思いますが、これは凍み芋です。ジャガイモを寒の水につけて、それでいくと澱粉なんかそのまんま。これはおやきみたいなものでホド餅と呼んでます。こういうことを大事にしましょうと。

 一番若いのが65歳ですから、日本のいわば、将来の村の姿みたいな。これは僕がすごいなと思って20年おつきあいしてんですが、今年20年目になりました。ここは18人のおじいちゃんおばあちゃんたちが、もう山を下りようかどうか迷って、炉辺で話し合いしながら考え出した、俺たちはこのように生きたいという、生きられるかどうかわからないけどそうしたいという。この村は、与えられた自然立地を活かし、自然立地はもう選べないんです。だからここというところをちゃんと引き受けて、ここがもうちょっと暖かかったらなあとか、そんなこと言わないで、与えられた立地をまず僕ら活かそうではないかということです。この地に住むことに誇りを持ち、一人一芸なにかをつくり、なんです。

 18人が必ず、俺はザルを、俺はこの道具を、俺はこれをというふうに一人、一つの芸を持とう、ものをつくる芸を身につけようと、料理であったり、なんでもいいわけです。一人一芸何かをつくろうって。18人がつくれば、18のよいものが生まれるということ。一人一芸何かをつくり、都会の後を追い求めず。これが僕なんかができなかったことであります。オラの村だめなんでないか、って。こんな不便な村、やっぱり東京がええわ。でもここは、踏みとどまったんですな。やせ我慢かもしれません。都会の後を追い求めず。で、独自の生活文化を伝統の中から創造する。つまり先人たちが積み上げてきた文化というものをちゃんと受けとめてもういっぺんつくり直し、集落の共同と和の精神で、自分たちの生活を高めようとする村である。昭和60年。

 そして、これを一生懸命、20年間がんばって。僕20年ずうっと見てきて、今、こんなものは潰れてもおかしくないのに、年間2千人の若者がここに訪ねてきて泊まっていきます。若者にとても元気を与えているというか、元気というのは何かを直感した、生き暮れた、若者たちかどうかは別として、ここで。そうするとなにか彼らが書いていきます。人は一人では生きられない、とか。これ岩手大学の学生です。一晩二晩泊まって、そこでの村の営みを見て。若い人ってすごいなと僕は思っています。なにが大事かをこの村から、おじいちゃんたちおばあちゃんたちの暮らしの中から、受けとめたんですね。で、時間ができるとここに学びに来ているようであります。村が学校になっています。

 そこに近い野田村というこんな漁港で、この辺の「味噌玉」はこんなんでつくりますかね? ここはお米があまり取れないので、味噌玉は味噌だけをこう。これが冬に備える薪の量です。だから手入れがされています。東北で一番山が手入れされているのは岩手県です。燃料として使う率が圧倒的に高いからです。使うということは守るということになります。言葉では守れないんです。お金だけでは守れないんです。使うことが守ることになる。家だって同じではないでしょうか。包丁だって使わないで置いておいたらさびますよ、使っていくから包丁は磨かれていくわけであります。

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