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地元学を知る 「地産地消で地域の再生を」地元学であるものさがし (2006年10月9日(月・祝) 愛東福祉センターじゅぴあ)
割に会わない農業を止められない魅力だから、それを聞いて思ったことと、もう一つ。農業を農業としてやっていらっしゃる方にとっては、この近江の食を考える時にため息が必ずあります。「なんで農作物ってこんなに安いんだろう」って。俺は労働基準法違反だと思っているんです、農業は。だから農水省とよう喧嘩します。「おい、産業論で農業を考えるんならよ、労働基準法をさ、農家に適用しろ」って。「そうでなければ君ら産業論で論じてはダメだ」って。学生にもそれを言っています。最低賃金法もクリアできない職業にね、「ああたらこうたら、お前さんたちに論じてもらいたくない」って。 でも、実際に個別には、東北を歩きますと、じいさまの嘆きがあるんです。実にいい顔のじいさま、いっぱいいるんですよ。俺の大好きな秋田の山奥にいるじいさまはいっつも、酒飲んである量を超えると始まるんです。「あー、百姓ぐらいバカクサイ仕事ねえ」って。口極めて百姓はダメだって、国はダメだって、愚痴が出るんですわ。「ああ、きたきた!」って、俺、最初は逃げていたんですが、ある時、また始まったから、もう7年聞いているわけだから、「じいさまよ、あんたおかしい」って俺言っちゃったの、それさえ言わなければこんないいじいさんいないと思っている人なんだ。「じいさん、おかしいよ、それ、あんた去年も言ったよ。割り合わない、割り合わないって。なら、なんでやめねえんだ?」って俺言っちゃったんです。沖縄のおばあの影響かな。「なんでやめないんだ?」って、そしたらじいさま、「うっ!」って言ったきり黙っちゃったですよ、酒覚めたみたいに。そしてふっと立ち上がって奥の部屋に引っ込んじゃったんですよ。 「ああ、大事な先輩を失ったなぁ・・・」と思っていたら、じいさま出てきたんですよ、部屋からまた。手に袋を持っていまして、お茶袋みたいな、美濃紙みたいなのに、何を思ったのかどかっとまた座って、手を出して、「結城さん」って、こうやって。種でした。 「この種をさぁ」って。「この種を、家の前を耕して畑に蒔くだろう、蒔くと気になるなぁ」って。そうでしょう? 蒔けば気になるでしょう? そうすると毎日「起きるとまず畑見まわりに行く」って。「いつか1週間すると芽が出るよ」って。「おお」って思うって、「間引き」って思うって。その間引きというのは何年やっても難しいんだって。大事な方を抜いたような気がしてしょうがないんだと。そういうもんだって言うんだよ、「難しいもんだ」って。でも、残ったやつには、「お前らシッカリしろよ」ってこう言ったりするんだって。「でもその間引いたやつは食ってやんねえとかわいそうだから、オラ食うよ」って、味噌汁に放ったりすると。そう言うんだよね。それで、また間引きをやって、行くと毎日ヒョロヒョロ伸びていくって。で、ある朝、いつものように朝早く起きて畑に行って、「おう、どうれよ」と見ると、双葉がポッと開く瞬間に出くわすって。思わず「あっ!」て声が出るって。なんともいえない気持ちだって。 俺、あんまり泣くということはしない人間ですが、涙出ましたな。「ポッ」に騙されて90近くまで生きられるんなら、私も騙されてみたいですよ。違いましょうか? それをなんか4ha以上でなきゃダメだとか、集落20haだとか、訳の分からないことを。結局自分ではやらない人間たちのプランはいかに見事でも、現場、現実の人を動かすことはできないというのが、農水省30数年の政策を検証して僕が思うことです。 じいさまだって理屈では「こんな合わねえものはねえ」と愚痴が出てしょうがないけれども、「ポッ」に騙されてまだやっているんですよ。地域が変化したりよくなるってそういうことでないですか。小理屈並べるんじゃなくて、ね。僕はそう思うから、だから、アバウト、アバウト。こぼれた種の方が丈夫だったりしますよね。ちゃんとこっち耕して、ちゃんと肥料もやったのに、こぼした種の脇のほうのやつがグイグイ伸びてくるってありますよ。 「ポッ」というの誰も教えてくれなかった。金ばっかりだったの。なんで後継者が育たないか、孫が生まれるとおじいちゃんが「百姓だけはするなよ。百姓だけはするなよ」って。かあちゃんも「百姓すんなよ」って。父ちゃんも「百姓すんなよ」って。そんなので0歳から育ったらなりますか? 金にはならぬがそうやって生きてきた。それをちゃんと教えて欲しい。「ポッ」に騙されて。あなたも「ポッ」に騙されなさい。
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