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人と自然を考える会
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地域資源を生かした「まちづくり」事例学習(その3)

「東近江を循環・共生の大地に」

 地域が自立して生きる仕組みづくり

(2006年12月23日(土) 愛東福祉センターじゅぴあ)
講師:
宮本憲一 嘉田由紀子 藤井絢子

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滋賀は分散型の地域

 しかし、これを少し客観的に見てみると、いくつかの問題点がそこに感じられるわけであります。それは、一つは滋賀県というのは非常に分散型の地域なんですね。たとえば大阪だとか、もう少し人口が似ている石川県を取り上げてもいいんですが、工場が集積をしている、あるいは経済学でクラスターと言いまして、そこで産業が連関している状態が滋賀県ではあんまり見られないんですね。非常にたくさんの工場があるんですけれど、みんな分散型でばらばらっと散っているわけですね。都市もそうでありまして、都市らしい集積をしている地域というのが必ずしもなくて、大津も30万って言いますけど非常に区域が広くて、都心の所がガラガラになっているような感じで。これは彦根も、私住んでみて、肝心の都心は衰退していて、市長も南の方ばっかり開発するもんですから、区域がどんどん広がっていて都市とは言えない。一番中心部の所でも多くの商店が閉めてしまうというように分散しているんですね。都市的な機能もですね。

 それから、大学もそうでありまして、滋賀大学はまず典型なんですが、肝心の二つの学部が60km離れていまして、学長をしている時に往復するだけで大変でありまして、大学の持っている総合大学としての面白みっていうのが、とれないように分散しているんですね。そういう意味では、集積型でない分散型の経済社会構造をしているんですね。

 これはプラスにも働くと私は思うんですね。たとえば、大阪やあるいは尼崎や、そういう所のように工場地帯がぐっと集積をしてコンビナートであったり、あるいは一定の工場地帯をつくっていますと、ものすごい大気汚染や水汚染やそういうものが複合して濃度の高いもので、しかも周辺にたくさんの人口が集積していると、深刻な公害問題を起こしたわけですね。

 そういう経験は、滋賀県にはない。しかし、川を伝って琵琶湖へ集積したわけですよね。だから、やっぱり最終的には集積するんですけれど。特に琵琶湖は平水面ですから、分散型の開発をしていると、個々の所で深刻な公害は起こらなかったかもしれないが、琵琶湖という大変貴重な環境をやはり川を伝って汚してしまうということを見ているんです。

外来型開発の問題点

 もう一つ、滋賀県の特徴というのは、我々は外来型開発と言っているんですが、滋賀県は確かに工場の集積、製造業の生産、人口の急激な集積では全国でも有数の、そしてそれによって経済が発展したことは間違いないんですけれども、これは必ずしも滋賀県の産業、滋賀県で培われた技術を土台にして出来上がった製造業の発展ではないんですよね。多くが中央の関西や関東の大企業が進出してきたのですね。

 また、ここへ集積してきている新しい人口、社会像が滋賀県は大変目立っているんですけれども、それも必ずしも土着の方っていうよりは大都市から、特に京都や大阪の市民が環境のいい滋賀県を求めて居住をする。それで都市化が進んだり、住居が増えたりしているわけでありまして、こういうのは我々地域経済論では外来型開発と言っているんですが、そのこと自体は滋賀県に魅力があるからそうやって来てくれるんだという、立地のメリットがあったことは間違いないんですけれども、しかし、滋賀県の経済にとってみると、きわめて問題の多い構造をしているわけです。

 これをたとえば同じ人口の、20万ぐらい人口が少ないんですが、石川県と較べてみますと、その違いが歴然とするわけでして。石川県の場合は、ほとんどが地元の中小企業が発展して、製造業の種類から言いますと、滋賀県とよく似ていまして、電子工業が強い。それから、繊維工業、機械工業が強いという点では似ているんですけれども、規模はまったく小さい。

 中小の企業が自ら技術を開発して、それで産業連関をつくっていったわけですね。どこが違うかっていいますと、そのために生み出された所得のうちで利潤の部分というのは、石川県の場合は全部本社が地元にありますから地元に落ちるわけですね。ところが、滋賀県の場合は本社はみんな東京や大阪にありますから、所得が外へ流れていくわけです。とりわけ我々は社会的譲与と言っているんですが、利潤だとか税金だとか、個人の貯蓄だとか、その社会的譲与の配分がどうしても外来型開発をやってきた所は一見華やかに見えて手元に落ちないんですね。

 ですから、一人当たりの所得で測ったり、製造業の生産額で測りますと滋賀県は石川県よりはるかに上です。しかし、個人の所帯に入ってくる所得でいうと、ぐっと石川県の方が高いのです。それは当然でありまして、滋賀県の場合は譲与所得、社会的譲与が外へ逃げていっているからでありまして、地元に落ちていないから、一人当たりの分配所得にしますと、生産所得は大きくても分配所得は低くなるわけであります。その意味ではこういう外来型開発っていうのは一見華やかに見えて本当に住民の生活にプラスになっているかどうかっていうことになると、問題が出てくるわけですね。

 私はその意味で滋賀県はこれからどうするのかと聞かれた時に、これは滋賀銀行の雑誌にも書いたんですが、今まで蓄積されてきた、つまり大企業の非常に優れた技術もこの地域の中に使われているわけですから、そういった技術が地元でうまく結合していくように、そうして地元で内発的な発展に向かうようにですね。それがないと、滋賀県の未来というのは、立地条件が悪くなるともう中国へ行った方がいいというようなことで工場も出て行ってしまいますし、これからの新しい技術っていうのは大学やその他研究機関と結びついていかなければならないわけですけれども、本当にそういうものが地元で身についてどう発展させていくかっていうことを考えなければならない。京都や大阪からこの環境のよさを求めて来た人たちがどう根付くか、その人たちが本当に滋賀県の県民として、滋賀県の発展のために自分の知恵、自分の技術、自分の経験というものをどう活かしていくかは、未来の滋賀県の非常に大きな課題ではないか。

 外来型開発から内発的発展へ。つまりこれは人の問題なんですけれどね。経済っていうのは人の問題でありまして、お金の問題ではないんです。観光にしたってそうなんです。観光だってそこに素敵な人がいるから観光していくのでありまして、そういう意味では僕は滋賀県っていうのは素敵な琵琶湖を持っていて、本当に滋賀大学の学長をしている時も、琵琶湖が見えるっていうことは最高の喜びで。この素敵な琵琶湖を土台にしながら、どうやって滋賀県がこれを単に利水で他の所に供給するっていうだけじゃなくて、この環境を保持しながら内発的な発展をしていく独自の道を探していくかっていうのが問われていて。私はこれを嘉田さんに大いに期待しているところでありまして、これからの課題。ぼくは滋賀県は条件というのはそろっているんだと思うんですね。だからこそ外からどんどんどんどん入ってきたんだと思うんですが。そろっているんだけれども、そのそろっているものをどう活かしていくかということを考えなければならないだろうと思っているのです。

 そういう意味で言いますと、じゃあどうするのかと言いますと、むしろ県庁がどうするということじゃなくてですね、それぞれの地元で、内発的な発展をするのはみなさん方でありまして、それからまた市町村と市町村に根ざす商工業やいろんな団体がこれからの力をどう発揮するかということになってくるんだろうと思います。

 それで少し、これからの地域開発、地域の発展と言ったらいいかもしれませんが、それはどうあるべきかということについてお話をしてみたいわけです。

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